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謎だらけのコーヒー教室

阪急六甲駅のそばに月森という喫茶店があった。たまたま、仕事帰りにその店の前を通ったのが、私のワニ人生の始まりだったかもと今なら思える。

神戸といえば、中華、イタリアン、餃子、紅茶やケーキと様々な街の名物のがあるが、紅茶派のスーツ好きの私にはぴったりで、山と海の真ん中にある小さなハイツの一階を借りて、私はアパレルデザイナーとして日々仕事とお菓子の間を行き来をしていた。

そのお店は、物静かな様子で、ホットケーキがメイン。一人で切り盛りしているためお客さんが4人になったら、注文してから焼き上がるまで2時間30分待ちが当たり前。が、常に絵を描く仕事をしている私にとって格好の居場所となった。焼き上がるまで洋服の絵を描いていられた。

お店が3年目の時に、本格的に店主と仲が良くなりそれからは夜な夜な話し込んだり、私のメイン晩御飯がホットケーキになったりと、やはり相変わらず絵を描き続けていたのだが、そんなこんなをしていたら5年の月日があっという間に過ぎました。ある日、月子(店主のニックネーム)に話があると言われた。

3度の飯より仕事と友だちが1番の私。どんな相談でものるよと夕方店によると真剣な面持ちで話が始まった。

上田さん(私の旧姓)、上田さんがコーヒー飲まないのは知っているんだけど、店ができてちょうど5年が経ちました。もうそろそろ準備ができたと思うのでコーヒー教室をしてもらおうと思うんです。その会に(飲めないのは十分わかっているんだけど)参加してほしいんです。だめですか?

と言われて驚いた。友だちの願いならそりゃ叶えたい。が、とても小さな店でコーヒーの好きな人たちが集まってコーヒーを習っているところに飲めない自分が参加する姿が想像できなかったのである。とても驚いた顔でその話を私は聞いていた様で

グッと(店主に)手を握られて

しんどくなったら店の外で座れるようにします。気が向いた時にだけ店の中に入るだけでもいいんです、どうしても上田さんに来てほしいんです!と人混みが苦手な私のことを気遣ってまでの誘いを断る理由が見つからず

知ってるよね?私がコーヒー飲めないの?

はいもちろんです

それでも、参加した方が月子は嬉しいの?

はい

に、悩むこと数秒、わかった、じゃあしんどかったら店の外に出て外から覗く感じよかったらと答えたらとっても喜びながら

よかった、私が10年コーヒーを習い続けている先生なんです。とってもおいしいコーヒーを淹れるのできっと上田さんも飲めると思うんです。

キラキラした友の目に彼女が喜ぶのであれば3時間ほど我慢すれば…と思うと同時にコーヒー教室って何?と思う余裕は私にはなくて、数日してから一体どんな人にどう習うんだ?若い人だったらどうしよう?などとその場のノリを心配し始めて駆け足で店に行き、行くのはいいが私は一体どんな人に習うんだ?と友人尋ねると

あらまあ、上田さんそんなことが心配なの確か写真があったはず、ちょっと待ってねと、戸棚から缶を取り出し中をガサゴソしていると1枚の写真が出て来た。

はい、これがワニさんです満面御笑み。私のコーヒーの先生ですと説明をしてくれている声は遠くの方響いてて、私は写真を食い入るように見つめた。

そこには喫茶店の厨房に立つ私の友人と、推定年齢80歳ぐらいに見えるオレンジ色の帽子を被ったメガネをかけたおじいさんらしき姿の人物がなにか喋ってるんだろうなという面持ちで、寄れたラクダ色の服を着ている。よく見るとクマの小さなワンポイントが付いていて悪い人(意地悪)の様には見えなかった。

おじいさんならコワくないか

と、何を安心したのかほっとしてたら

その写真あげますから中川ワニ珈琲教室楽しみにしていてくださいとにっこり笑う友人の言葉にその場はうんと返事をした。家に帰り一人になると

中川ワニ珈琲ってなに?私コーヒー飲めない…

本当に大丈なのかしら?と写真に映る謎の世界観にこれは調べなければならないと思った。


月森のコーヒーフロート


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