ゴルフ場はみんなの休日、私の平日。

 首都高の分岐だらけの道を抜け、真っすぐ道がずっと続く無機質な塀に囲まれた常磐道ひた走る。早朝から120キロの1人ドライブを経て、都会の喧騒に別れを告げた。

 高速を降りると世界は変わり落ち着きと人情が漂う雰囲気に包まれ、駐車場が店の何倍もあるコンビニで朝食を買い、また走り出す。

 田舎道の右側にいきなり現れる古風で仰々しく構えた石造りの門に右折で入り、広々とした駐車場に車を止めた。向かいを見れば外車ばかりで、絆創膏だらけの私の空色セレナ号は肩身狭そうにしている。車のドアを開けて一歩外に出れば、肺を満たす空気が心なしか澄んでいるようで、両手をめいいっぱい広げて伸びをすれば、なんとも言えない声が思わず漏れた。
 
 キャディバックを担ぎバブリーな雰囲気が微かに残るクラブハウスの中に入れば、大きな謎の銅像に暖色系の花がこれでもかといけられた花瓶。温かく明るすぎない照明が眠く開けづらい目への配慮に感じる。フロント前にはいまや誰も立ち止まらない非接触型体温計と、熱中症対策喚起のポスターが貼られている。今の気温は26度、昼過ぎは34度まで上がるらしい。雲も無いほどの晴天に風も木が少し揺れる程度。暑さは誤魔化せないが、ゴルフをするには最高の天気だろう。少々動かしづらい関節をぐいっと動かしながらロッカールームをあとにした。

 自分のカートに荷物を積みながらふと考える。なんで休日にわざわざ早起きをしてまで熱中症の危険しかないにも関わらず、ここにいる人たちは楽しそうにしているんだろう。ラウンド前に練習グリーンでボールを転がしながら会話を弾ませるおじさまたちの希望に満ち溢れた感情が、表情と声色から伺える。おじさまの会話を聞いてみれば、8割ビジネストーク。今日は休日なのか、四捨五入したら仕事なのか、そんな疑問も浮かばなくもない。

 服に目を向ければ黄色に青、赤にオレンジ。日常生活では着ることが許されない原色や派手な柄が施されたウェアを全員が身につけている。緑のベースの色によく映える色とりどりの人間が、差し色としてゴルフ場を彩っているかのようだ。
 
 スタート時間も迫り、ティーグラウンドに移動した。夏らしい生き生きとした柔らかい緑を見せるグリーンのベント芝。ラフの長い芝は濃い緑で、冬場と違って芝の目が詰まっているし芝の花も咲いている。フェアウェイは薄い緑で、綺麗に刈りそろえられた芝が整列しているかのようだ。

 グラデーションを作り出している芝と、堂々と立ち聳える木々。グリーン右手前のバンカーの砂色は何故だか脳裏に残るインパクトを持ち、吸い込まれそうになる。

 着いた時より3度も気温が上がり太陽も気合が入ってきた。芝生の照り返しで日焼け止めの守備範囲を早くも越えそうな天気の良さに半ばため息をつきながら、まだ始まっていない今日のラウンドに根拠のない自信と希望だけを抱いて第一打を放っていった。

えのもときょうか

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