「言う」人は「しない」のナッジ
今回もナッジについて。
(前回)
なぜ医者の不養生が起きるのか?
今回のナッジは、「モラル・ライセンシング」。
「いいこと」を言う人は、「いいこと」をしない
という法則をご存じだろうか。
「熱帯雨林を救え」というメッセージをSNS投稿すれのは、たしかに「いいこと」。
だが、その後に実際に熱帯雨林の森林伐採を止めにアマゾンに行く人はまずいない。
まあ、「アマゾンに行く」なんて軽々しくできることじゃない。
南半球まで行くには費用もかかるし仕事だってそんなに休めない。
危険だってある。
しかし、「アマゾンに行かない理由」はそれではない。
月や火星に行こうというわけではないのだから、費用だって時間だってその気になればどうにでもなる。
アマゾンに行かないのは、
「熱帯雨林を救え」メッセージを発信した時点で心が満足し、その後の行動 意欲がなくなっている
のが理由だ。
とはいえ、
「熱帯雨林を救えと言ったんだから、自らアマゾンに行くべきだ」
とプレッシャーをかけるのは、さすがにかわいそうだろう。
しかし、このテのことはよくある。
「いいことをSNSに書いて投稿した。だから、今日は少しくらい自宅で食品
ロスを出してもいいだろう」
と、人はしばしば自分に甘くなる。
なまじ意思表示をしたがために、すべき行動をしなくなる。
これを「モラル・ライセンシング効果」と呼ぶ。
人は「いいこと」を言った後に「いいこと」を休もうとすることがある。
「SNSに良い投稿をしたから、しばらくはこれでいいだろう」と考え、道徳的な行動を一時的にやめる。
医者の不養生ではないが、道徳的な指導者や活動家の多くが、人に説いたことを自分で実践するのに苦労している理由もこれで説明がつく。
社会的弱者を応援する印として、街頭で無料配布されるバッジやリストバンドを身につける人が増えたとしても、それで慈善団体への寄付が増えるとは限らない。
(増えないことがほとんどだ)
バッジやリストバンドをつけた時点で、その人の「よいこと」は終わっている。
会員が7万人いるのに…
筆者が最初に手がけた協会は食の資格を発行する協会で、開始したのは24年
前、現在会員が7万人ほどいる。
資格取得にかかる費用は安くない。
言い換えれば、安くない費用と勉強時間を費やして資格をとった人が7万人いる。
会員数が7万人というのは、まあまあ立派な数だろう。
みな、食の関心が高く、日本の生産者(農家や漁師)を応援したいという気持ちが強い。
そんな人が日本各地に7万人もいれば、日本の食卓も大いに発展しただろう…と思うかもしれない。
筆者も期待していた。
ところが、あいかわらず日本の食料自給率は4割あるかないかしかない。
この状況は、この20年、ちっとも改善しなかった。
(まあ、日本全体の問題を、たかだか1つの協会が解決できると考えるのは
酷かもしれないが)
事業としては非常にうまくいった。
これが会社だったら、満足だったろう。
しかし、協会としては、本来掲げた理念がさっぱり進展せず、われわれとしてはいまも悔しさを抱えている。
さて、
「会員が増えたのに、理念が実現しない」
今にして思えば、この現象の背後に、先ほどからの
「モラル・ライセンシング効果」
が潜んでいたのではないだろうか。
協会への応用
この「モラル・ライセンシング効果」は、協会に応用できるだろうか?
「いいこと」を言った後に「いいこと」 を休もうとする。
そういう人間の性質を、どのように協会に生かせるだろうか。
これには2つの局面がある。
1つは「モラル・ライセンシング効果」が起きないような工夫をし、そこから協会の活性化を考える局面。
もう1つは「モラル・ライセンシング効果」は起きるものという前提で、これをうまく協会に役立てる局面。
かなり長くなったので、この続きは別の機会に。
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