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介護施設のナッジ

ナッジという心理学の手法は、日常の中で人々の行動を自然に導くための「ちょっとした工夫」を意味します。
説得や強制ではなく、人が自発的に望ましい行動を取れるようにする環境づくりとして、社会のさまざまな場面で注目されています。
今回は、そんなナッジを介護施設に活用するアイデアについて、心理学に魅了された広告代理店勤務の奈地さんと、地方自治体で企画を担当する佐内さんの会話を通してご紹介します。
奈地さんは、小さな広告代理店に勤めながら趣味でナッジを研究し、いつかナッジの協会を作りたいと夢見ています。
一方、佐内さんは真面目で温厚な35歳の地方公務員。
2人は地域のイベントで知り合い、以来、ナッジに関する話題で意気投合する仲です。
ある日、介護施設の前で偶然出会った2人は、施設におけるナッジの可能性について語り合うことになりました。




佐内さん「あれ?奈地さんですよね?こんな所でお会いするなんて」

奈地さん「佐内さん!ごぶさた。介護施設にはめずらしい感じですけど、お仕事ですか?」

佐内さん「はい、『高齢者に優しい街づくり』プロジェクトの一環で視察に。奈地さんは?」

奈地さん「私は広告の仕事で。施設の案内パンフレットのデザインを頼まれて。でも、パンフレットって本当に効果あるのかなって、ずっと考えてて…実は、もっと斬新なアイデアがあるんです」

佐内さん「おお、それは興味深い。具体的には?」

奈地さん「まず、食堂の演出から。入った瞬間に、自動で鮮やかな野菜の写真が映し出されて、『あなたの細胞が喜んでます!』っていうメッセージが流れる仕掛けとか。カラフルなライトで食材を照らし出すとか」

佐内さん「食事を楽しいイベントに変えるわけですね」

奈地さん「そう!それと、廊下には一歩ごとに色が変わるLEDライトを設置して。歩くたびに虹が広がるの。『小さな冒険の道』って名付けて、ちょっとしたゴールも用意するの」

佐内さん「あの…素晴らしいアイデアなんですが、予算的に…」

奈地さん「あ、そうか!予算の制約ありますよね。ごめんなさい、つい理想を語っちゃって」

佐内さん「いえ、アイデア自体は本当に魅力的です。ただ、もう少し小規模にスタートできる案があれば…」

奈地さん「そうですね…じゃあ、まずは一番お金のかからないところから。お寺の境内理論って知ってます?鳥居をくぐると人の気持ちが変わるっていう…」

佐内さん「その理論、とても興味深いですね」

奈地さん「そうなんです!靴の履き替えを気持ちの切り替えポイントにして、廊下に写真を飾るだけでも効果は期待できるんです。で、予算に余裕が出てきたら、少しずつ他のアイデアも…」

佐内さん「なるほど。段階的な実施を考えているんですね」

奈地さん「はい。それと、休憩エリアには癒しの音楽を流して、『ここで5分間、深呼吸してみましょう』って音声ガイドを。スタッフの方々にもリラックスしてほしくて」

佐内さん「スタッフのケアまで考えているんですね」

奈地さん「あと、施設内に『絵しりとりコーナー』なんかどうでしょう?白板に最初の絵を描いてもらって、次の人が続きを描いていく。自然と会話が生まれる仕掛けになるはずで…あ、また長くなっちゃった」

佐内さん「いえ、むしろ面白いです。他にもアイデアがあれば」

奈地さん「じゃあもう一つ!居室の前に、思い出の写真を飾れるスペースを作るの。家族が定期的に写真を替えられるように。あと、スタッフ向けに『あなたの仕事が入居者の笑顔を生んでいます』っていうメッセージを表示する電光掲示板とか…」

佐内さん「奈地さんって、本当にナッジ研究が好きなんですね。以前の自転車のナッジといい、給食プロジェクトといい」

奈地さん「あはは、バレました?昔から心理学が好きで。人の行動がちょっとした工夫で変わるのが面白くて。実は…ナッジ協会を作りたいって夢もあるんですけど」

佐内さん「それ、とても良いアイデアだと思います。実は来月から新しいプロジェクトが始まるんです。その第一弾として、今日伺ったナッジのアイデアを取り入れてみませんか?」

奈地さん「えっ、本当ですか?でも、前回の自転車の時みたいに、結局プレゼンの機会もなく終わっちゃうんじゃ…」

佐内さん「今度こそ本気です。来週、課内会議があるんですが、そこでプレゼンしていただけませんか?」

奈地さん「課内会議!?ちょっと緊張しますね…。でも、せっかくのチャンスだし。これが協会設立への第一歩になるかも」

佐内さん「きっとなりますよ。奈地さんのアイデアが形になれば、他の施設からも声がかかるはずです」

奈地さん「ありがとうございます。頑張ってみます!…って、もうこんな時間!打ち合わせに遅れちゃう」

佐内さん「僕も次の予定が。では来週、楽しみにしています」

奈地さん「はい!今度こそ、何か形になるといいな。ナッジ協会への小さな一歩になりそうです」





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