採用活動のナッジ
採用活動にナッジ(行動経済学における「そっと後押しする仕組み」)を活用できないか…。
今回は、趣味でナッジを研究している奈地さんと、人材育成のプロフェッショナルとして長年活躍されている内田さんとの対話を通じて、採用活動におけるアプローチについて考えてみたいと思います。
奈地さんは広告代理店に勤務する傍ら心理学を学び、内田さんは大手企業の人事部長を経て現在は人材育成コンサルタントとして活躍しています。
2人の対話から、採用活動を違った視点で見つめ直すヒントが見えてきそうです。
奈地さん「内田さん、お時間いただいてありがとうございます」
内田さん「表情を見ると、何か楽しそうね。また面白いアイデアを考えてきたんじゃないの?」
奈地さん「さすが内田さん!実は会社で採用活動の手伝いを頼まれまして。私、ナッジの研究をしているから、何かアイデアを出せないかって」
内田さん「まあ、それは興味深いわね。どんなことを考えているの?」
奈地さん「『社会的証明』とか『選択のフレーミング』とか、教科書に出てくるような手法は思いつくんですが...なんというか、それだけじゃ物足りなくて」
内田さん「そういう王道のアプローチは、かえって応募者の警戒心を煽ることもあるものね」
奈地さん「それで、もっとさりげない、でも効果的な方法はないかと...」
内田さん「例えば、椅子の話から始めましょうか」
奈地さん「椅子...ですか?」
内田さん「ええ。面接室の椅子を、応募者の人数より1つ多く置いておくの」
奈地さん「それって...『将来の仲間のための席』という暗示ですか?なるほど、これなら警戒心を煽らないですね」
内田さん「大切なのは、誰もそれを口にしないこと。空間が語りかける物語を、そっと届ける感じ」
奈地さん「素敵ですね...他にも何かありますか?私、ついつい長々と説明しがちなので、もっとシンプルなアイデアを知りたくて」
内田さん「あなたの『話が長くなる』癖は、熱意の表れだと前にも話したわよね。でも今日は『選ばれる経験』というナッジについて話してみましょうか」
奈地さん「選ばれる経験?」
内田さん「内定通知と一緒に、『なぜあなたを選んだのか』という具体的な理由を3つ添えるの。『先月入社した○○さんも、あなたと同じような経験から成長しました』といった具体例も効果的よ」
奈地さん「ああ!でも...それって操作になりませんか?」
内田さん「良い質問ね。ではこう考えてみて。応募者をただの『候補者』ではなく、パートナーとして迎える。その姿勢を示すことは、操作だと思う?」
奈地さん「なるほど...相手のことを理解して、対等な関係を築こうとする行為なんですね」
内田さん「操作ではなく、相手への深い理解と配慮なの」
奈地さん「今の説明、しっくりきました。3つ目のアイデアも聞けますか?」
内田さん「ええ。内定者に『採用プロジェクトメンバー』という肩書を付与して、『来年度の採用施策への提言』という具体的なミッションを与えるの」
奈地さん「それって...応募のプロセス自体を、ちょっとした『ゲーム』にするような発想ですよね」
内田さん「ええ。でも遊び心は補助的な要素に留めることが大切よ」
奈地さん「分かります。真剣さと信頼感を失わない範囲で...」
内田さん「さあ、今日のお土産を3つ、差し上げましょうか」
奈地さん「まあ。このあいだみたいに?」
(このあいだ)
内田さん「1つ目は『ナッジは操作ではなく配慮である』という気づき。2つ目は『相手の立場で考える習慣の大切さ』。そして3つ目は...」
奈地さん「3つ目は?」
内田さん「『あなたの長所である”話が長くなる」からこそ見えてくる深い洞察”よ」
奈地さん「内田さん...今夜はモカの散歩しながら、この3つのこと、じっくり考えてみます」
内田さん「ふふ、モカちゃんが長話に付き合ってくれるかしら」
奈地さん「大丈夫です。このアイデアなら、きっと短く説明できそうな気がします。それに、これを会社で試してみた結果も、また報告に来たいと思います」
内田さん「あら、もう成長が見えるわね。楽しみに待ってるわ」