嫌な上司のナッジ
奈地さんは、小さな広告代理店に勤めながらも、心理学への熱い興味を抱き続けています。
とくに、人の行動をやわらかく変える「ナッジ」に魅了され、研究を重ねる日々。
そんな彼女には、職場でふとしたきっかけからナッジの知識を活用したいという場面が訪れることがしばしばあります。
今日もまた、職場の悩みを解決するため、彼女が持つ豊富なナッジのアイデアが動き出そうとしていました。
奈地さん「青山さん、今日は急に呼び出してしまって本当にごめんね。最近、うちの職場で上司のことでちょっと困っていて…。セミナー以来、こういう話をするのは2年ぶりかな」
青山さん「こちらこそありがとう。ちょうど職場のコミュニケーション改善について考えていたところだから助かるよ。で、上司の問題って？」
奈地さん「うちの上司がね、もう本当に細かくてさ！会議中も報告書の細かいフォントの選び方から、話の内容まで、いちいち指摘してくるんだよ。あと、部下の意見を全く聞かずに自分の考えばかり押し通すし…。チーム全体がもう疲弊しちゃってて、なんとかしたいなって思って。ナッジを使えば少しは改善できるんじゃないかって考えてるんだけど…」
青山さん「ナッジね。セミナーで話してたやつだね。確かに、上司を変えるっていうのは難しいけど、行動を和らげる工夫ならできるかもね。どんなアイデアを考えた？」
奈地さん「えっと、いろいろ考えたんだけど…。たとえば、『単純接触効果』って知ってる？これは顔を合わせる回数が増えるだけで、相手への印象が少し良くなるっていう心理なんだけど、わざと廊下で会うタイミングを増やすとかどうかなって。でもそれだけじゃ足りないかな…。あ！他には、会議室の壁に『意見を聞くことがチームの成長につながる』みたいなポジティブなメッセージを掲示するのも考えたの」
青山さん「それはいいね。会議前に視覚的なナッジがあると、上司も潜在意識に働きかけられるかもしれない。けど、もっと上司が自然と行動を変えざるを得ないような仕掛けも考えてみたらどうかな？」
奈地さん「うんうん。たとえば、叱責の前に深呼吸してもらうように、上司のデスクに小さな砂時計を置くとか。深呼吸することで少し冷静になってくれたら、トゲのある言葉が減るかなって…。あ、ちょっと極端かもしれないけど、どう思う？」
青山さん「それは面白いアイデアだよ。深呼吸することで心が落ち着く効果は確かにあるし、自然に促すのがポイントだね。ただ、その砂時計がちゃんと機能するように、上司が無意識に手を伸ばすような配置に工夫するのが重要かも」
奈地さん「あとは『イケア効果』っていうのもあるの。これは自分で手を加えたものに愛着が湧くって心理なんだけど、職場のアイデアを共有する時に、上司に企画の途中段階で相談するんだ。上司が少しでも意見を出すと、自然とそのプロジェクトに愛着を持ってくれて、批判的な態度が柔らかくなるんじゃないかなって」
青山さん「なるほど。それなら、上司が“自分のアイデアが反映されている”と感じるから、積極的にサポートしたくなるね。いい方向に転がる可能性が高い」
奈地さん「そうだよね！それから、もう一つあるんだけど…『返報性』の心理も使えないかな？たとえば、部下から上司に小さな親切をしてみるの。『コーヒー淹れましょうか？』とか『この資料、印刷しておきました』とか。そうすると上司も自然とお返ししたくなる心理が働くんだよ。これで少し態度が柔らかくなるかもって思うの」
青山さん「『返報性』ね、それは確かに有名な心理だね。小さな親切が大きな効果を生むなら、試してみる価値はありそう。奈地さん、本当に心理学の応用がうまいよね。セミナーでも使えそうなアイデアだ」
奈地さん「え、本当？それなら良かった。あと、もう一つだけ話してもいい？『トム・ソーヤー効果』って知ってる？トム・ソーヤーが塀塗りを楽しそうに見せて友達にやらせたみたいに、嫌な仕事を楽しいものに見せかけるんだ。たとえば、上司からの面倒な指示を“チャレンジだ”とポジティブに捉えて、自分のモチベーションを保つ手法なんだけど…。あ、また話が長くなっちゃったね、ごめん！」
青山さん「いやいや、面白いからどんどん話して。『トム・ソーヤー効果』も興味深いね。認知の変換で仕事を前向きに捉えるって、意識の切り替えに役立ちそう」
奈地さん「そう言ってもらえると嬉しい！実は、こういうナッジの知識をもっと広めたいなって思ってて…。将来的には“ナッジ協会”みたいなものを作りたいなって。まだ夢の話だけど」
青山さん「ナッジ協会か、それはいい目標だよ。今話してくれたアイデアだけでも、職場改善に役立ちそうだし、きっとたくさんの人が興味を持つと思う。でも今は、上司対策に集中しようか。どれか一つ試してみたら？」
奈地さん「そうだね、まずは小さなことから始めてみるよ。砂時計のナッジから試してみて、効果が出たら他の方法も考えていく。ああ、やっぱり青山さんに話して良かった！元気が出たよ」
青山さん「それは良かった。どんな反応があるか、また教えてね。ナッジの話は本当に参考になるし、奈地さんの熱意も伝わってくるから、ぜひ続けてみて」
奈地さん「ありがとう！これから試してみるね。結果が出たら真っ先に報告するから、また聞いてくれる？」
青山さん「もちろん、楽しみにしてるよ。じゃあ、また近いうちに！」
奈地さん「じゃあね。バイバイ」
ふたたび奈地さん「…ていうか、悩んでいるのは私で、アイデア出したのも私だよね。青山さん、何もアイデア出してくれなかったんじゃない？」
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