カジノのナッジ
今やだれもが知っているであろう有名なハエの話から。
このアイデア自体は半世紀以上前からあったものらしい。
オランダが発祥だという。
古来から、人の行動を変えたいときは、
その重要性を論理的に説明すること
感情に訴えること
が法則だと、考えられていた。
しかし、それでうまくいくこともあるが、うまくいかないことも多い。
「洗面所をきれいに使おう」と有名人やインフルエンサーが論理的に、あるいは情感たっぷりに説得しようとしても、政府が印象的な広告を出したとしても、おそらく洗面所はきれいにならない。
ところが一匹のハエの絵がそれを変える。
説得は関係ない。
こういうのを「ナッジ」という。
「ナッジ」とは、おおざっぱにいうと、
「人間の心理を利用して行動を促すさりげない仕掛け・優しいテクニック」
を指す。
飲食店などで椅子の隣や下にカゴを置いておくと、客はそこに荷物を入れる。
客側は荷物が守られている安心感を得る。
店側もサービスの動線を妨げられることがなくなる。
双方にメリットがある。
これもナッジの一種だ。
このカゴのアイデアは日本が発祥ではないかと思う(エビデンスはないが)。
日本は諸外国から「清潔で行儀のよい国」と見られているようだが、研究者の中には
日本人はナッジが得意で、いたるところに見えないナッジが仕掛けられている。
だから清潔で行儀がよい。
と考えている人もいると聞く。
今回のテーマは、
「メンタル・アカウンティング」。
カジノには、客がお金を払いやすくするための巧妙な仕掛けがたくさんあり、ナッジの宝庫と言われている。。
入口で現金をチップに替えるのもその1つ。
賭け金をチップに替えるのは、大量の現金を持ち歩くことの危険性を減らす安全面の理由だけではない。
プラスチックのチップを使って賭けると、現金を使った場合よりも負けたときに苦痛を感じにくい。
これは行動経済学で
「メンタル・アカウンティング」
という概念に関連する。
メンタル・アカウンティングとは、人々が金銭に関する決定をする際、お金を複数の異なるカテゴリに割り当てることを指す。
たとえば
「家賃のためのお金」というカテゴリ
「休暇のための貯金」というカテゴリ
「日常の雑費」というカテゴリ
などに無意識に分ける。
あるカテゴリで予算を超過したときは、
「他のカテゴリで節約すればいいや」
と考え、その場で浪費を正当化する。
明日からダイエットだ、と自分に言い聞かせて、今日わんさか食べるのに近い。
カジノでは、現金をチップに替えることで脳はそのお金を「遊興」というカテゴリーに勝手に分類する。
その結果、現金を使うよりも精神的な抵抗が低くなる。
使い過ぎたら
「明日から外食を減らして自炊を増やそう」
などと帳尻をあわせようとするが、使い過ぎそのものをやめることはない。
▽
この「メンタルア・カウンティング」を協会に応用するとしたら?
ナッジを姑息な目的に使うのも協会としてどうかとは思うが、あえてブレストと割り切っていくつか出してみる。
特別基金の設定:特定のプロジェクトやイベントのための「特別基金」を設定し、寄付などを募る。参加者は一般的な寄付より具体的な目的のためにお金を使うという感覚を持つ。
目的別会費システム:会費を「〇〇会費」「〇〇基金」など、明確な目的ごとに分ける。会員は自分の支払いが具体的な目的に使われると知り、より行動しやすい。
小規模クラウドファンディング:小規模なクラウドファンディングを行い、会員が自分の参加を具体的な成果に結びつけるようにする。これにより、いつもの協会の活動とは異なる「精神的な講座」を会員が持つ。
協会通貨(協会コイン)の導入:地域通貨のようなものを協会が発行する。現金の代わりにコインを使用することで、財務的な圧力を感じにくくする。
▽
余談だが、カジノには、他にも以下のようなナッジが仕掛けられている。
(この中には、将来、法律などで禁止されるものが出てくるかもしれない)
止めどきを感じさせないナッジ:
窓は閉鎖されている(陽光が差さない)。
時計は撤去されている。
帰さないナッジ:
出口がわかりにくい複雑なレイアウト。
早歩きしにくい毛足の長いフロア絨毯。
判断力を鈍らせるナッジ:
低額または無料で提供されるお酒。
期待させるナッジ:
随所にスロットマシンが設置され、
当たりが出る場面を目撃しやすい。
最後のナッジは、日本のデパートなどでも見ることがある。
催事場の主催者は、午前中の抽選で派手な景品を多く出すようにしているという。
あとから来る人が、大きな景品を抱えた人を目撃しやすくするためだ。
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