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協会は心理学を使い倒せ
前回「アンダーマイニングを念頭に協会を回せ」の復習です。
会員がせっかく「手伝いたい」と言ってくれているのだから、さっさと頼んでしまえばいいのに、
何を頼めばいいか思い浮かばない
思い浮かんだとしても説明したり教えたりするのが面倒だ(自分でするほうが早い)
報酬を払うべきなのかそうでないのかわからない
といった理由で、結局、頼まずに終わる。
そのうち会員のほうも「手伝いたい」とは言わなくなり、心が離れていく。
代表者が1人で孤軍奮闘している協会の、あるあるです。
前述したなかで、
「報酬を払うべきなのかそうでないのか」
に関しては、1つの答があります。
基本、手伝ってくれる会員には、お金を払いません。
お金がもったいないからではなく、多くの場合、お金を払った瞬間にモチベーションが下がるからです。
心理学の言葉で「アンダーマイニング」といいます。
とくに、会員が「ヒツジ型」の場合はこれに気をつけなくてはなりません。
ヒツジ型の人はアンダーマイニングを起こしやすいからです。
▽
では今回の本題です。
アンダーマイニングを実生活に応用したエピソードを紹介します。
大学で心理学を学んでいるA子さんには悩みがありました。
自宅が近所の小学生の、いたずらの標的になっていたのです。
家の塀に毎日、下品な落書きをされていました。
描かれた落書きを消すのは大変です。
腹も立ちます。
「現場を押さえてとっちめてやるから」
と意気込んではみるものの、すばしっこい小学生のこと、電光石火で逃げ散ります。
埒(らち)があきません。
どうしたら落書きをやめさせることができるのか…。
A子さんは悩みました。
小学生のほうは、さぞ楽しかったことでしょう。
こういうのは相手が熱くなればなるほど、面白いからです。
そんなある日、A子さんは学校で「アンダーマイニング」を勉強し、ある作戦を思いつきました。
翌日、例の小学生たちがやってきていつものように塀に落書きを始めます。
そこに出現したA子さん。
あわてて逃げようとする子どもたちに
「待って。逃げなくていいからね。おねえさんが今日からみんなにお小遣いをあげる」
と声をかけました。
1人1人に100円玉を握らせながら、A子さんは言いました。
「男の子は元気がいちばん。落書きしてくれたらお礼に小遣いをあげる」
「えっ、落書きしてお金もくれるの?」
いぶかしげな顔の子どもたちでしたが、小遣いがイヤなはずはありません。
「明日もお小遣いをあげるからね。しっかり落書きを頼んだぞ、諸君」
「やったー」
子どもたちは機嫌よく帰りました。
次の日、小学生たちは約束どおり落書きをし、A子さんは約束どおり小遣いを渡しました。
その次の日も、小学生たちは塀に落書きをし、A子さんは小遣いを渡しました。
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ところが数日後。
「ごめん!小遣いは今日でおしまい」
突然、A子さんが宣告しました。
「えー」「なんで」
「言ったとおりに落書きしたじゃん」
文句たらたらの小学生。
A子さんは
「だって大学生は貧乏なんだもん。もうお金がなくて。本当にごめん!」
と平謝りしました。
次の日の放課後、A子さんがこっそり子どもたちの様子を観察してみると…。
小学生のあいだでこんな会話が交わされていました。
「おいどうする。落書き行く?」
「でもなんか、やる気しないなあ」
「小遣い、もらえないしな」
「ケチなクソババアだよ」
落書きに小遣いをあげたのにケチだなんて、なんなのもう!
A子さんは心のなかでプンプン怒りましたが、それはともかく、作戦は当たりました。
(クソババアのほうはいいのかよ)
小学生たちのモチベーションは、すっかり失われていたのです。
結局その日は落書きをせず。
以後も、彼らが落書きをすることはありませんでした。
こうして、A子さんは平和な日々を取り戻しましたとさ。
▽
子どもたちは最初はただ単に面白いから落書きをしていました。
でも小遣いをもらっているうちに、落書きの動機が「お金をもらうこと」に変化しました。
そのあと小遣い支給がストップした結果、落書きをする理由が消えてしまいました。
モチベーションがだだ下がりしたというわけです。
これがアンダーマイニングです。
ただし、なんでもアンダーマイニングが通用すると考えるのは間違いです。
アンダーマイニングが通用するのは、相手が自らのしていることを「活動」「遊び」と認識しているときに限ります。
「仕事」と考える人には通用しません。
これを都合よく勘違いして、
あの店のオヤジは蕎麦好きが高じて脱サラして蕎麦屋を開いた。
好きでやっているんだから、モチベーションを下げないためにもあの蕎麦屋では金を払わないようにしてあげよう。
などとやってしまうと、無銭飲食でつかまることになります。