ベジファーストのナッジ
今回もナッジについて。
前回の復習:モラル・ライセンシング効果
「モラル・ライセンシング効果」とは、
「いいこと」を言った後、一時的に「いいこと」を休む
そんな傾向のことを指す。
自分が道徳的な行動をしたと感じた後に、その行動に対する自己満足感から、他の不道徳な行動を正当化する
そんな傾向だともいえる。
SNSに環境愛あふれるすばらしい投稿をした後で、自宅で食品ロスを出す
道徳的な指導者や活動家が、しばしば言うこととすることが違っている
健康的な食事をした後、一時的に食べ過ぎやジャンクフードの摂取に走る
人権に対する重要性を説いた後、差別的な行動をとる
人々に勇気を与えるメッセージを発信した後、自分自身が行動を躊躇する
社会的な問題について訴えた後、実際は何もしないまま問題を放置する
などなど。
いわば、「言う」人は「しない」。
ベジファースト
一般的に「ベジファースト」とは、食事の最初に野菜を摂る健康法。
血糖値の急上昇を防ぎ、食物繊維で満腹感を得やすくする。
しかし、ここでは違う意味に使う。
スーパーマーケットのレイアウトは、この「モラル・ライセンシング効果」を逆利用している。
どういうことかと言うと、私たち買物客は最初に野菜売場を通るのがふつうだ。
そこでまず野菜をカゴに入れる。
野菜をカゴに入れたことで、私たちは
「これで正しいことをした。体に良いことをした」
と道徳的に満足する。
無意識にこうした満足が生成されていると、その後に何を買おうが、罪悪感を覚えずに済む。
心置きなく、いろいろ買うことができる。
買物客の心のタガは外れ、スーパー側は売上を伸ばす。
このナッジの応用
この「モラル・ライセンシング効果」を協会に応用する方法については、2つの局面が考えられる。
予防型:この効果が起きないような工夫をすることで、協会の活性化を図るもの。
利用型:「モラル・ライセンシング効果」が起きることを前提に、それを上手く協会に役立てるもの。
予防型
会員が協会の活動に参加した後、人によってはそれで「十分に貢献した」と感じてしまい、その後の活動への参加や貢献をサボる場合がある。
会員が協会の講座を受講した後、人によっては「自己向上に取り組んだ」と感じ、その後の自己研鑽や協会活動への積極的な関与を怠る場合がある。
これはほかの会員にも「伝染」する可能性があり、放置すると協会が不活発になる。
こうしたモチベーションの低下を防ぐには、協会側はモラルライセンシングを意識した活動計画を立て、定期的な参加促進や価値観の再確認、継続的な貢献への奨励などを行うことが重要となる。
たとえば以下のようなものだ。
ポジティブなフィードバックの提供:会員の善行に対して正のフィードバックを提供する。例えば、彼らの努力や活動がどのように社会や協会に貢献しているかを示す、メールやニュースレターを送ることで善行の価値を再認識させ継続的な良い行動を促す、など。
ロールモデルの提示:他の会員が継続的に善行を行っている事例を共有する。
個別の役割設定:会員一人一人に合わせた個別の役割を設定する。※
※この「役割設定」は協会の運営には欠かせない重要事項なので、本稿の最後に解説を入れておく。
利用型
あらためてモラルライセンシング効果とは、一度善行を行うことで後に罪悪感なく悪い行動をとりやすくなる心理現象のこと。
これを協会に都合よく活用できるだろうか。
つまり、会員が一度善行を行うことで後に罪悪感なく悪い行動をとった結果、それがかえって協会のメリットになるような方策を考えてみよう。
この「悪い行動」が実は協会にとって有益だった、という設計が必要となる。
積極的な意見表明の奨励手段として:協会内のミーティングやイベントではじめに全員で社会貢献活動への参加を行い、その後に意見交換を行う。
通常、意見の対立は避けられがちだが、はじめに善行を行ったことで会員は自信を持って自分の意見を述べることができ、新しいアイデアの創出につながる。
競争的な活動への参加:協会が主催するイベントやコンテストで、最初に協力的な活動に参加させた後、競争的な活動(例えばコンテスト)への参加を促す。競争は一般に否定的なイメージがあるが、この文脈では創造性や熱意を促進する手段となり、活動の活性化につながる。
積極的なマーケティング活動:会員が協会のために何か無償で行った後(例えば、環境クリーンアップ活動)、彼らに協会の講座などを積極的に広めるよう促す。普段は嫌がられる「営業」的な行動も、先に善行を行ったことで、会員はより自信を持って動けるようになる。
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