情けは人のためならず型の協会PR作戦
はじめに
「情けは人のためならず」
本来の意味は、
「人に対して情けを掛けておけば，めぐりめぐって自分によい報いが返ってくる」
が正しいそうだ。
さて、1990年代のアメリカで、ある協会が、「情けは人のためならず」的な方法を使い知名度を上げた。
今回はその話をしたい。
情けは人のためならずの協会
知名度を上げたといっても、一般の人々のあいだで有名になったわけではない。
だいいち、その必要もなかった。
芸能人が成功するには広く一般に知られることが大事かもしれないが、協会の場合は、その業界内で知られ、リスペクトされればそれで十分だ。
（むろんそれとて簡単なことではないが）
その協会の名は「米国ウエルネス協会」。
日本でいう「健康経営」をテーマにした協会だ。
健康経営とは、
「従業員の健康増進に会社が積極的に関わること」
を指す。
健康経営には
「社員が健康になれば会社の雰囲気も良くなるし、業績もあがるだろう。採用にも有利なはずだ」
という期待があり、日本政府も健康経営を広めようとしている。
もともとはアメリカから伝わった考え方だ。
さて、米国ウエルネス協会は一般の人々に名前を知られる必要はなかったが、企業の経営陣に知られたいと望んでいた。
そこでこの協会は、「勝手表彰」とでも呼ぶべき手法を使った。
勝手表彰とは
「勝手表彰」とは何か。
その前に「勝手格付」について説明する（「勝手表彰」ではなく「勝手格付」）。
金融の世界には「債権格付機関」というものが存在している。
政府が発行する国債
自治体が発行する地方債
企業が発行する社債
など、債権の信用度を「格付」している。
こうした格付機関は、通常は
「格付してほしい」
という依頼主の依頼にもとづき、手数料をもらって格付をする。
これを「依頼格付」という。
しかし格付機関はときおり、頼まれてないのに独自の判断で格付をすることがある。
「勝手格付」と呼ばれるものだ。
頼まれないのに勝手にやるので、当然、格付機関側は手数料を受け取らない。
その結果、良い格付になれば、格付された側は大喜びだ。
無料で格付をしてもらい、結果が良いわけだから。
問題は、その反対のケース、すなわち、不満足な格付になった場合だ。
頼みもしないのに勝手に格付をされ、その結果が悪かったとなると、格付された側は
「余計なことをするな」「その格付はおかしい」
と反発する。
実際、よくモメている。
勝手表彰の協会
日本の経産省は東京証券取引所と共同で、健康経営に積極的な企業を表彰している。
米国ウエルネス協会も、健康経営に取り組むアメリカ企業を表彰していた。
面白いのは、米国ウエルネス協会も債券格付機関のように
「頼まれてもいないのに勝手に表彰した」
という点だ。
つまり「勝手表彰」。
「勝手格付」ならぬ「勝手表彰」だ。
（この協会が行った表彰のほとんどが「勝手表彰」だったと思われる）
表彰状やトロフィーを用意し、勝手に表彰先に贈っていた。
贈られた企業からすると、ある日、突然、表彰状やトロフィーが届く。
一種のサプライズだ。
勝手表彰が知名度を上げるメカニズム
債権格付機関の「勝手格付」の場合は、その格付結果によって、相手が喜ぶときと嫌がるときがある。
これに対し、米国ウエルネス協会の勝手表彰は、表彰するだけだから、相手が嫌がることはまずない。
基本、そのサプライズは喜ばれる。
たとえ米国ウエルネス協会のことを知らなくても、表彰された企業のほうは
「立派な協会から表彰してもらった」
と感じるようだ。
その結果、表彰された側は多くの場合、大喜びして
「当社は米国ウエルネス協会に 表彰されました！」
という「お知らせ」を自社サイトに出す。
「当社は米国ウエルネス協会に 表彰されました！」
というプレスリリースを配信する。
それを読んだメディアが、米国ウエルネス協会を取材し、その特集記事が新聞や雑誌に載る。
これが全米のあちこちで繰り返された結果、米国ウエルネス協会はかなりの早さで有名になっていった。
まとめ
勝手に企業を表彰する
→ それを企業に自慢してもらう
→ 結果的に協会の知名度を上げる。
これが「勝手表彰」というわけだ。