カゴを渡せ


はじめに

前回にひきつづき「ナッジ」について。

「ナッジ」とは、おおざっぱにいうと、
「人間の心理を利用して行動を促すさりげない仕掛け・優しいテクニック」
を指す。

たとえば…

とあるレストランでは、だれが試食しても「美味しい」という評価をもらえる、自信満々の料理を提供しているのにも関わらず、客からの評価が低かった。
観察したところ、客はよそよそしい感じで、無口で食事をしていた。

そこで、各テーブルに音の出る牛の置物を置いてみた。
客がテーブルについてもあえてすぐに食事を提供せず、牛の置物に気づくまで待つ。
客が牛の置物を手に取ると、牛の置物は「モー」と低い鳴き声をあげる。
客は驚いて動揺するが、すぐに笑い出す。
そのうち、レストラン内は「モー、モー」という牛の鳴き声で満たされ、自然と笑顔で満たされる。

客の気分がよくなったところで、料理の1品目を出す。
これにより、客は料理を以前よりおいしいと感じるようになり、店の評価が上がった。

これはナッジの1つだ。
ナッジは、人々の選択や行動を微妙に方向づける手法のことを指す。

カゴは人のためならず

前置きが長くなったが、今回のテーマは「選択のアーキテクチャ」。

スーパーマーケットなどでは、店内いたるところにカゴが置いてある。
カゴのあるなしで、売上が変わるからだ。

単に客への親切心からカゴが置かれている、と思っている人もいるかもしれないが、実際には購買意欲を解放するのが最大の目的となっている。

ある研究によれば、カゴやカートを持った客が使った金額は、持たなかった客の3倍だった。

別の研究によれば、

  • カゴやカートを持った客が何も買わない確率は1/4しかない。=3/4は何かしら買っている。

  • カゴやカートを持たなかった客の2/3は何も買わなかった。=何かを買った人は1/3しかいない。

ある衣料品店では、店内にカゴを置いただけで、売り上げが2倍になった。

つまり、カゴやカートを持つかどうかで購入行動は大きく変わる

カゴやカートを持たないと、自然に購買意欲が抑制される。
逆に、カゴを持つと、目に入った商品をついついカゴに入れてしまう。

このことをよく知っているから、店内にはあちこちにカゴが設置されている。

この発想をさらに一歩進めるならば、
「店に近づいた客には、どんどんカゴを渡すべきだ」
ということになる。

この、カゴを渡す行為に該当するものを「選択のアーキテクチャ」という。

カゴ理論

このテクニックは協会の運営にどのように応用できるだろうか。

  • スーパーマーケットの場合:来店した客にカゴを渡し、購入意欲を高める。

  • 協会の場合:ウェブサイトを訪れた人に、「カゴに相当する何か」を渡し、講座への受講意欲を高める

こう考えたときに、「カゴに相当する何か」とは何だろうか。

いろいろ考えられる。
いくつか挙げてみよう。

  • 診断ツール

  • 検定ツール

  • 体験講座

  • メールマガジン

どれもそれぞれ「カゴ」の役割を果たす。

ただし、使い方に注意。
このうち、最初の3つ(診断・検定・体験)は性質が似ている。
効力が1回きりだ。

診断は1回やれば終わる。
検定も1回性のものだ。
2回やる人はあまりいない。
体験講座も、2回受ける人は少ないだろう。

つまり、その1回が重要になる。
いわば、時間が来たら溶けてなくなるカゴみたいなものか。

いっぽう、メールマガジンは継続する性質があるため、ある意味、ゆっくり行う。
相手にずっと持ってもらうカゴ、とでも言えるかもしれない。

持っているカゴを手放すかどうかは相手の自由なので、カゴを手渡す側は
「手放さずにずっと持ってもらうにはどうしたらよいか」
を考える必要がある。

境内理論

余談だが、協会総研では、かねてから
「境内理論」
というものをよく使っている。
神社の境内になぞらえてナッジを進める手法だ。

ほとんどの日本人は、いったん神社の鳥居をくぐったら、必ず賽銭箱にお金を入れる。
つまり賽銭を増やしたければ、人々に鳥居をくぐってもらうとよい。

これは今回のカゴの話とよく似ている。
カゴを受け取った人の多くが購買するのと同様、鳥居をくぐった人の多くが賽銭箱にお金を入れる。

あなたの協会にとって
*「カゴ」に該当するものは何か
*「鳥居」に該当するものは何か

これを考えてみることを今回は推奨したい。





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