相続対策のナッジ
相続対策というと、税理士に相談して税金対策を考えるのが一般的かもしれません。
しかし、相続の現場で実際に問題になるのは、意外にも人の心理だとか。
今回は、税理士事務所を営む直江さんと、ナッジ(行動経済学における緩やかな誘導)を趣味で研究している奈地さんとの会話を通じて、相続対策における新しいアプローチをご紹介します。
普段は広告代理店に勤める奈地さんが、心理学的な視点から「相続心理問題」の解決策を提案していきます。
奈地さん「直江さん、今日はチラシの打ち合わせ、ありがとうございます。相続対策がテーマなんですよね」
直江さん「ああ、いつもお世話になってます。最近、相続で揉める案件が増えていてね。なんとかチラシで、もっと早めの対策の大切さを伝えられないかと思って」
奈地さん「へぇ、相続って税金の計算が難しいんですか?」
直江さん「いや、実は税金の計算自体は、我々税理士にとっては日常茶飯事なんです。むしろ問題は…」
奈地さん「問題は?」
直江さん「家族間の人間関係なんですよ。相続税には申告期限があります。それまでに、悲しみを抱えながら遺産分割の話し合いをしなければならない。そこで感情的になって…」
奈地さん「あ!それ、ナッジで解決できるかもしれません!」
直江さん「ナッジ?あの、そっと肘で突くような…」
奈地さん「そうなんです!直訳すると軽く肘で突く、という意味なんですけど、要は人々を望ましい方向に自然と導く仕組みのことなんです。私、趣味で行動経済学を勉強してるんですけど…あ、また長くなりそう。すみません」
直江さん「いえいえ、むしろ興味深い。具体的にはどんなことができるんでしょう?」
奈地さん「たとえば、認知不協和の解消を使うとか」
直江さん「認知不協和?」
奈地さん「はい。人は自分の行動を正当化したがる性質があるんです。これを使って、生前に家族で思い出の品々を一緒に整理する機会を作る。そうすると、モノへの執着が自然と薄れていくんです」
直江さん「なるほど。確かに、遺品整理で揉めるケースは多いですからね」
奈地さん「あとは、境内理論の応用なんかも面白いかも」
直江さん「境内…神社の?」
奈地さん「そうなんです。神社に行くと、なんとなく賽銭を投げたくなりますよね。あれは鳥居をくぐって境内に入ることで、特別な心理状態になるからなんです。これを相続に応用して…」
直江さん「ほう?」
奈地さん「遺産分割の前に、まず些細な贈り物から始めてみる。小さな贈与を積み重ねることで、自然と公平感を醸成するとか」
直江さん「なるほど。今までの相続対策は、どちらかというと税金計算や節税が中心でした。でも、こういうナッジ的なアプローチも大切かもしれません」
奈地さん「そうそう!あ、もう一つ。イケア効果というのも使えそうです」
直江さん「イケア?あの家具屋さん?」
奈地さん「はい。自分で組み立てた家具に愛着が湧くように、人は自分が関わったものに特別な価値を感じるんです。だから、相続の計画作りに家族全員を参加させる。そうすると…」
直江さん「自分も関わった計画だから、後で不満が出にくい?」
奈地さん「そうなんです!あ、また長話してしまいました。チラシの話でしたよね…」
直江さん「いえいえ、とても参考になりました。むしろ、このナッジの考え方をチラシに入れてみませんか?」
奈地さん「え?」
直江さん「『税金だけじゃない、ナッジから考える新しい相続対策』なんていうのは?」
奈地さん「それ、いいですね!相続は法律や税金の問題である前に、人の心理の問題なわけですから」
直江さん「奈地さん、このアイデアをもっと詳しく聞かせてもらえませんか?できれば、うちの事務所でセミナーとかも…」
奈地さん「えっ、セミナーですか!?私なんかが人前で話すなんて…でも、ナッジの面白さを伝えるチャンスかも…」
直江さん「ぜひお願いします。このナッジという考え方、相続以外の分野でも使えそうですしね」
奈地さん「そうなんです!実は私、将来はナッジの…あ、また長話になりそう」
直江さん「いえ、ぜひ聞かせてください。まだ時間もありますし」
奈地さん「本当ですか?じゃあ、お言葉に甘えて…実は私、ナッジの協会を作りたいと思ってるんです」
直江さん「協会?それは面白い。私も何かお手伝いできるかもしれません」
奈地さん「本当ですか!?ありがとうございます。あ、でもその前に、まずはチラシのデザインから決めないと」
直江さん「そうですね。でも今日は、チラシ以上の収穫がありました」