学校の先生のナッジ
「ナッジ（nudge：そっと後押しする）」という言葉をご存じでしょうか。行動経済学の重要な概念の一つで、「強制によらず、自然と望ましい行動を選んでもらう工夫」を指します。
このナッジ、私たちの身近なところで日常的に活用されているのです。
今回は、広告代理店に勤めながらナッジを研究している奈地さんと、公立小学校で教鞭を執る芝田先生との会話を通じて、学校の先生が無意識のうちに実践している「教室のナッジ」について考えてみたいと思います。
このお二人は同じマンションに住む犬の散歩仲間。
休日の朝の何気ない会話から、教育現場に潜むナッジの数々が明らかになっていきます。
奈地さん「あ、芝田先生！おはようございます。今日も早いですね」
芝田さん「おはようございます。土曜は早めに散歩するのが習慣なんです。あら、モカちゃんも元気そうですね」
奈地さん「はい、相変わらず活発です。チョコちゃんも可愛い！...あ、そうだ先生、この前お話していた若手の先生へのアドバイス、どうなりました？」
芝田さん「ええ、来週、初任の田中先生と話すことになったんです。でも、自分のやり方って、何となくの経験でやっているだけだから、うまく説明できるか心配で...」
奈地さん「あ！それ、もしかしたら私のナッジの研究が役立つかもしれません！実は先生の普段のクラス運営って、ナッジの宝庫だと思うんですよ。たとえば、先生が机の配置を工夫されているのって、まさにナッジですよね」
芝田さん「ナッジ...確か、行動経済学の考え方でしたよね。でも机の配置がナッジだなんて、初めて聞きました」
奈地さん「そうなんです！ナッジって、強制ではなくて自然と望ましい行動を選んでもらう工夫のことですよね。先生、よく机をコの字型にされてますよね。あれって、生徒同士が自然と顔を合わせやすくなるし、でも先生の方も向きやすい。まさに、環境デザインによるナッジなんです。私、広告の仕事をしているから特に興味深くて...あ、また長話になっちゃいました」
芝田さん「いえいえ、とても参考になります。確かに、机の配置を変えただけで、子どもたちの様子が全然違うんです。でも、それがナッジだったなんて」
奈地さん「他にも先生がされている工夫、たくさんありますよね。『みんな、静かに座れていますね』って、できている子を褒めるの。あれも素晴らしいナッジです。できていない子に『静かにしなさい』って言うんじゃなくて」
芝田さん「なるほど！黒板の高さを少し低めにしているのも、そうかもしれません。背の低い子でも書き込みやすいように、って考えたんですけど」
奈地さん「そうそう！それも立派なナッジです。私ね、いつか『ナッジで人を幸せにする協会』みたいなのを作りたいって思ってるんです。だって、先生みたいに無意識にナッジを実践されている方って、きっとたくさんいらっしゃるはずで。そういう知恵を集めて、広めていけたら素敵だなって」
芝田さん「すごくいい考えですね。教育現場だけでも、まだまだ眠っているナッジのアイデアがありそうです」
奈地さん「そうなんです！たとえば、先生の教室の掲示物の配置とか。上の方に目標を掲示して、目線の高さに今週の予定を貼るの、あれも素晴らしいナッジですよ。視線の動きを自然と誘導していますよね。企業の広告でも使う手法なんです。あ、また長くなっちゃった...」
芝田さん「いえ、むしろ聞きたいです。他にも気づいたナッジがありますか？」
奈地さん「ありますよ！先生が赤ペンで添削するとき、まず良いところに〇をつけてから、直すところを指摘されますよね。あれって、心理学でいう『プライミング効果』を使ったナッジなんです。最初に肯定的な印象を与えることで、その後の指摘も素直に受け入れやすくなるんですよ」
芝田さん「へぇ、そんな理論があったんですね。ただなんとなく、そうするといいかなって思ってただけなのに」
奈地さん「それに、先生が『今日は○○さんから発表してもらいましょう』って指名する順番も、実はナッジかもしれません。発表が得意な子から始めることで、他の子たちの緊張を和らげているんじゃないですか？」
芝田さん「そうなんです！特に意識してなかったけど、確かにそうしてます。奈地さんの協会、実現したら面白そうですね」
奈地さん「ありがとうございます！でもまだ漠然としたアイデアで...あ、もうこんな時間！急がないと朝ごはんの支度が...」
芝田さん「私も授業の準備があるので。でも、来週また散歩でお会いできたら、職員室のナッジについても教えてください」
奈地さん「はい！今度は職員室のナッジについて、たくさんお話ししましょう。その前に、もっと勉強しておかないと。モカ、帰るよ！」
芝田さん「では、また来週。チョコ、お散歩終わりよ」
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