見出し画像

#21 マグニ / Magni


I. 前日譚: 寝耳に水

Magniとは,強大という意の名を持つ北欧神話の男神の一柱で,かの高名な雷神トールと巨人イェルンサクサの息子であり.ラグナロクから生還した数少ない一柱である.

…というのは今回ほぼ関係なく,単に雷神の息子というだけで名前を持ってきただけである.

大学時代はESSと映画部に入っていたと#20で話したが,映画部は一般的な作る側ではなく観る側のものだった.名目上は「映画の演出効果ならびに表現技法,演技技法,流行の原因,時代背景などを研究し,批評を行う」というものなのだが,実際のところそこまで深いことを考えているのかというとそうでもなく,実質的には普通に「映画を観てみんなで駄弁る」という内容だった.

しかしどうやら昨年の代替わりの時に顧問教員も変わった影響で,ただ映画を観ているだけというのは罷り成らんというお叱りが飛んできたらしく,やむを得ず後輩たちは映画を1本製作して学祭で出すことにしたらしい.同居人はまだ大学生でそのサークルに残っているので,近況はしばしば耳にしつつ,大変そうだなあと他人事のように考えていた.

ただ……彼女らは曲がりなりにも数多くの映画を摂取してきた者共である.一度凝り出すと徹底的になり始めたらしい.みんなで金を出してわざわざガチの撮影機材をレンタルし,衣装を演劇部,脚本を小説研究会に外注し,挙句の果てには他学の心理学部の人間を召喚してプロットに不自然なところはないかチェックさせるということをし始めたらしい.

でもやはり私にとっては古巣がなんかわちゃわちゃしてるなあ程度の出来事だった.まさか当事者になるわけでもないしね.そう思っていた.

……そう思っていたのだ.

考えてもみてほしい.衣装や脚本をそこまでガチっているのなら音楽に手を出さないわけがない.主題歌は勿論,劇伴だって要る.でもうちには作曲サークルもあるし,頼むならそっちに行くよねぇ……と思っていたら,まさかの私の方に依頼が来た.

大体,サークルに残っている私の同居人も私程の頻度ではないものの曲は作れるし,何なら件の作曲サークルとうちが不仲というわけでもない.だというのに何故か私の方に来た.

まあ話だけでも聞いてやろうかと思いDiscordに入ると,だいぶ無茶な要求が飛んできた.劇伴15曲と主題歌を作れというものだ.

映画にしては劇伴15曲というのはだいぶ少ない方だ.しかしこれをアマチュアが数カ月で作れというのはいくらなんでも無茶がある.何しろこちとら1年かけて18曲なのである.

しかし断れど後輩はなかなかしぶとく,私が部分的にでも首を縦に振らないと折れないつもりらしい.数時間押し問答が続いたのち,劇伴はそれこそ作曲サークルとかうちの同居人に振ってくれということにし,主題歌の作曲だけ引き受け,出来た曲を適当に作曲サークルなり軽音部に投げて編曲してもらってくれということで話がまとまった.

注文は「速い曲」というひとことだけだったので好き勝手やった.むしろ,普段人が歌うことを考えて曲を作っていないため,音の選び方が難しく,普通なら注文が多い方がいいのだが,こと今回に限っては注文が少なくて助かった.その結果完成したのが今回のマグニである.ただし,このタイトルは仮タイトルのようなもので,詞を付けたあとは曲名が変わるだろう.


II. 解説

のちのち軽音なり作曲サークルに投げるということで普通にロックイメージなのだが,となると変ロ短調(♭5)とかにするとギターが死ぬため,キーは嬰ハ短調にした.最終的に半音上に転調してニ短調になるのだが,ニ短調であればB♭とDmとFのバレーコードさえ出来れば何とかなる.

ギターを含め大抵の弦楽器は基本的にシャープ系のキーに強く,フラット系のキーに弱い.逆にピアノや管楽器の大半はフラット系のキーに強く,シャープ系に弱い.なのでギター系の曲を作るときはシャープ系かせいぜいフラット1,2個,逆に吹奏楽系の曲を作るならばフラット系かシャープ1,2個がちょうどいいのだ.

冒頭[A].サビスタートにするにはちょっと変な感じがしたので,サビの旋律をちょっと弄ってイントロにした.一瞬で終わる繋ぎの[B]はこの後ちょいちょい顔を出す.

[C],前々からこういうリズムが前に食ってる曲を作ってみたいと思っていた.ここの A > B > G#m > F#! > ~ のF#がド手癖.普通はここはF# (II)ではなくC#m (VIm)なのだが,キーによってはこのVImをIIに置換することでかなり(ギターで)弾きやすくなるのだ.例えばニ短調ならDmがGに,ト短調ならGmがCに,ロ短調ならBmがEになったりして弾きやすくなる.まあこの曲はラスサビの前まではずっと嬰ハ短調なのでこのIIは単なる嫌がらせだが.

[D]からAメロ.いつも手癖だとIV > V > VIm > IIImとかやることが多いのだが,今回は普通の王道進行(IV > V > IIIm > VIm)である.いつも通りの神主も一緒だよ! (IV > V > VIm) [E]のBメロみたいな同音連打は歌モノだからこそできること.結局この動画ではピアノソロだからわけわからないけどね.

[F]がサビなのだが……正直言うことがない.その後の[G]の間奏も同様.[H]の2A,一応後輩に渡した譜面には「ギターのアルペジオ」と書いてあるのだが,ピアノで作ってみたら思いのほかピアノでも良さそうな感じがして今揺れている.

[I]は2B……ではなく2サビである.しかも落ちサビかと思わせといて普通のサビである.こういう予想を裏切る展開が好き.[K]は[B]で一瞬出てきたモチーフ.ラフのバンドスコアの方だと[L]の裏でもこのモチーフが続く.その[L]はCメロ.

[M]のF#sus4/A!は偶然の産物.F#m7/A (= A6)を弾くつもりが,間違えてラではなくシを打鍵してしまってこうなったのだが,意外と悪くない響きだったのでそのまま採用した.

[O]からは転調.半音上でニ短調へ.変わっているのはキーと,最後の4小節のリピート,あと最後の小節の4拍目が後ろ側に食っている点.バンドスコアの方だとこの[P]はそのまま2小節伸ばしになっている.カラオケとかで歌ってると気持ちいいとこね.


III. 楽譜&音源配布

ここに書いてあるルールを守ってくれれば使途は問わない.

《楽譜ファイル (PDF)》

《高音質音源ファイル》
WAV形式のCD音質 (44.1kHz/16bit, 1411.2kbps)

《並音質音源ファイル》
MP3形式のストリーミング音質 (320kbps)


IV. あとがき: 誤飲した話

※極めて低俗な話です

先日一軒家に引っ越した.基本的には家が広くなることは喜ばしいことなのだが,幾つか弊害もあって,その最たるものが,トイレが遠いということである.トイレは1階と2階にあり,基本的に寝室は3階なので,夜中起きるといちいち2階に降りていかねばならない.いざ歩き出せば1分もかからないわけだが,心理的にはこの距離が地下鉄の1駅分くらいの距離に感じられ,なかなか行けないのである.

無論大きい方であればそこまで高頻度でもないのでこれくらいは諦めて立つしかないのだが,小さい方はまあまあの頻度だし,どうにか節約出来ないものかと思ったのである.そこで思いついたのが,空きのペットボトルに出すということだった.

出てくるところに密着させると空気が出れなくて下手すると暴発して外に漏れ出すので,少しだけ腰を浮かせるのがコツである.

出したものをすぐ処理しては意味がないため,大抵はそのペットボトルをベッドの下に隠して,翌朝こっそり回収してこっそり洗って捨てておくのがモーニングルーティンの一環だった.

ただ,当然この回収を忘れることもあって,かといって翌日の朝にまとめて回収しようとしても,ペットボトル1本くらいなら何とか隠し持てるものの,2本以上ともなると隠し切れるか怪しく,回収し忘れたものはそのまま隠しておいて休日の昼同居人がいない間にまとめて処理することにしていた.

事件が起きたのは先週の金曜.退勤してあまりにも疲れ果てていた私は晩飯の時間まで少し寝ることにした.

さて,1時間半ほどして起きると当然喉が渇いているわけで,枕元のサイドテーブルに置いてあったクリスタル○イザーを取ろうと手を伸ばした.しかし寝起きのふにゃふにゃな握力である.うっかり落としてしまい,クリスタル○イザーはベッドの下へと転がっていった.

うんざりしつつもベッド下に手を伸ばしてペットボトルを手に取って漸く口にする.寝起きのよく見えない目で,まして薄暗い部屋で,一切の確認もせずに,それがクリスタル○イザーであると微塵も疑わず一気に呷った.

次の瞬間,口腔に木霊する強烈な違和感に思わず吹き出してしまった.慌てて部屋の電気を点けて手に取ったボトルを見ると,それは見事なまでに綺麗な琥珀色だった.そして目の前のシーツには1度口に含まれた尊厳が染みを作っていた.

こうなっては最早隠しようがない.バレる前に同居人に自首した.2回の失禁があったので3回目の失禁は是が非でもすまいと気を付けていたところで,まさかの予想外の方向からの小水絡みの珍事が起きてしまい,しかもやはりその原因が例によって面倒臭がりに起因するものとなってしまった.案の定こっぴどく絞られたのは言うまでもない…….


V. クレジット

作曲・執筆: kyoka (@kyoka20011218)
浄書・動画編集: Noah
図々しいクライアント: M!!na
見出し画像: フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?