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「意のままになる他者」とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』


「意のままになる他者」 【いのままになるたしゃ】

 「われわれが「ありのままの私」を受け入れてほしいと言うとき、実はわれわれは潜在的に「意のままになる他者」を求めていると言える。もちろん人間は、誰もが他人の心、行動、評価などを「意のままにしたい」と願う原初的な欲望を秘めていると言えるかもしれない。しかし改めて想像してみてほしい。人間が〈関係性〉のなかで“充実”し、“喜び”を感じるのは、はたして本当に他人が「意のままになる」ときなのだろうか。」

上巻 227

 〈他者存在〉の根本原理に反した概念で、〈社会的装置〉に依存する「〈ユーザー〉としての生」が拡大した社会において、〈自立した個人〉の思想が浸透した結果として、他者や世間からの一切の抑圧を受けない「ありのままの私」や、そうした自己の唯一性が讃えられるべきだとする「かけがえのない私」、〈関係性〉の網の目から切り離されても成立しうると認識された「この私」の概念などが拡大していくなかで、人々が求めるようになるもの。

 「意のままになる他者」とは、「ありのままの私」や「かけがえのない私」、「この私」にとって、単純に都合の良い他者であるにすぎない。そのためこうした他者との間には「意味のある〈関係性〉」は成立せず、「意味のある私」もまた成立することはない。

 「意のままになる他者」とは、自分に媚びへつらい、服従するような他者とは少し異なる。それは、自身を肯定し、承認し、望んだ言葉をかけてくれ、望まないときにはそっとしておいてくれるような他者である。また怒ったり、悲しんだり、ときには拗ねたり、反抗したりといった、情感溢れる物語を演出してくれるような他者であり、それでいて、その関係性を変更することも、断ち切ることも、最終的には自身でコントロールできるような他者である。

 こうした他者は、〈自己完結社会〉が進展するにしたがって、AIを搭載したアンドロイドやバーチャル人格によって演出されるようになるだろう。

上柿崇英『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版、2021年)

 このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。

 (現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。

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