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「通販人間」の比喩とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』


「通販人間」の比喩 【つうはんにんげんのひゆ】

 「きわめて高度な〈自己完結社会〉においては、人々は自室を出る必要性がますますなくなっていく。物質的世界をAIと機械によって制御し、社会生活を「情報世界」のバーチャル空間において行うようになれば、われわれは自室で一生を完結させることができるからである。すべての必要物はドローンで自宅に届けてもらい、人々は「情報世界」に構えられたバーチャルなオフィスにアバターとなって出勤する。人々の傍らでは、自分好みのアンドロイドが身の回りの世話だけでなく、「意のままになる他者」を都合良く演じてくれるだろう。」 ()

下巻 125

 〈無限の生〉の敗北を超克するために、いっそのこと〈生の自己完結化〉〈生の脱身体化〉を極限まで推し進め、「意のままにならない他者」「意のままにならない身体」からの完全解放を試みる思考実験のひとつで、生産活動を自動化させ、必要なものをすべてドローンで自宅に届けてもらうことによって、社会生活をバーチャル空間(メタバース)内で完結できるようになった社会のこと。

 社会関係の大半がアバター同士の関係性となり、プライベートはアンドロイドが充実させてくれるので、人々は生まれながらの身体的な特徴や属性(〈有限の生〉の第二原則=「生受の条件の原則」)に関わらず、自身の思う「こうでなければならない私」を演じることが可能となる。

 身体を持たないアバターとしてのこの私が、臭い、汚い、きつい、痛いといった諸々の身体的なわざわいから無縁であるのに対して、モニターの前に鎮座する現実のこの私は、相変わらず運動しなければ肥満になり、手入れをしなければ汚れて臭くなり、老い衰えていく(アンドロイドはそれでも無条件の承認を与えてくれるかもしれないが)。

 そしてこのギャップこそが、「無間地獄」の苦しみをもたらす原因となるわけだが、ここまで来れば、人々にとって身体を維持する必然性はもはや感じられないだろう(快楽や刺激がほしければ脳が直接感知できれば良い)。こうして「通販人間」はまもなく「脳人間」へと移行することになる。

上柿崇英『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版、2021年)

 このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。

 (現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。

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