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「必然的異常社会」とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』


「必然的異常社会」 【ひつぜんてきいじょうしゃかい】

 「吉田健彦は、現代社会を「必然的異常社会」と呼んだが、このことはわれわれの議論においても示唆に富むものだと言えるだろう。すなわち〈自己完結社会〉の成立は、一方ではわれわれの根源的な本性とも深く結びつくという意味において、確かにある種の「必然性」を伴っているということ、しかし他方で、それがかつてないほどの人間の存在様式の変容を伴うという意味においては、そこにはやはりある種の「異常」な事態が生じているとも言えるからである。」 

下巻 154

 メディア論/環境哲学の研究者である吉田健彦の概念で、科学技術がもたらす現代社会の病理的側面を、単なる疎外状態として理解するのではなく、その存在様式が長期にわたって変容していく出発点に、そもそもそうした病理をもたらすある種の必然性が含まれていたと考える視点のこと。

 「メディア技術は自律的に拡大を続け、それにともないコミュニケーションの範囲は広がるように見える。けれどもその実、他者からは畏怖が失われ、剥奪されるリソースとなる。それは私自身から存在論的根拠を失わせ、最後には空疎で平坦な無限のデータのみが渦を巻く無人のメディア世界が残される。……私たちが生きているこの時代の持つ病理の多くが、このようにして生じていることは確かであろう。だが、これは人間存在の原初点に刻まれた二重らせんの構造の必然として現れたのであり、いずれかの時点で選択を変えていれば避け得たものではない。したがってこれは必然的に異常な社会なのだ。」 

吉田健彦(2021)『メディオーム――ポストヒューマンのメディア論』共和国、pp.28-29

上柿崇英『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版、2021年)

 このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。

 (現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。

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