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「熱鉄の寓話」とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』


「熱鉄の寓話」 【ねってつのぐうわ】

 「要するに、現実の外部にあったはずの理念が、ある面では実現してしまうのである。こうして彼らは、いつの日か本当に、自らがその約束の地へとたどり着けるような気がしてくる。しかしそのことによって、かえって彼らは苦しめられるのである。夢が叶った「若者」は、今度は微生物を犠牲にすることに耐えられなくなる。機械の右腕を手に入れた「先生」は、今度は左腕が、あるいは脚が、熱鉄を受けつけないことに耐えられなくなるからである。」 

下巻 123

 「現実を否定する理想」であるところの〈無限の生〉の「世界観=人間観」が人間的な〈生〉の現実との間で「無間地獄」に陥る様子(〈無限の生〉の敗北)を寓話として表現したもので、ここでは熱した鉄を生身の手で掴むという、そもそも現実離れした理想に対して、「諦めなければ、どのようなことであってもいつかは実現する」、「身近なところからはじめて、少しずつ変えていけばいい」といった一般論で語る「先生」の滑稽さが喜劇として描かれる。

 とはいえ、例えば科学技術が進展してサイボーグ化があたり前の時代になると、これは冗談ではすまされなくなる。

 機械の右腕を手に入れることで、今度は左腕が、あるいは脚が、熱鉄を受けつけないことに耐えられなくなるというのは、われわれが科学技術や〈社会的装置〉を媒介として、「存在論的自由」、あるいは〈生の自己完結化〉〈生の脱身体化〉をある面では実現してしまえること、しかしそれが実現することによって、かえってわれわれは決して消えることのない「意のままにならない他者」「意のままにならない身体」の存在に苦しめられるということを表している。

上柿崇英『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版、2021年)

 このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。

 (現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。

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