京島の10月|26. キノコとオブジェの余白
しばらく使っていた睡眠計測アプリを削除し、スマホを手放して寝た。寒くなってきたので腹巻をしてみたら、思いのほかポカポカで、朝の天気も良く目覚めはばっちりだった。チーズをのせたトーストで軽い軽食を済ませ、喫茶店まで歩く。日常から切り離された日が続いたせいか、いつになく仕事がはかどり、少し余裕を持って原稿を提出できた。
お昼過ぎ、隣人がキノコ会なるものを催すことをSNSで知り、行けそうだったので連絡。コンビニで甘いものを買って手土産にした。到着すると、入口のドアは半開きになっており、中にはもう1人客人がいた。こうした集まりに何の気なしに伺って、はじめましての人と出会う経験をこの街ではたくさんしてきた。
回の主催者との出会いも、引っ越して間もない頃、まだ押上の方でコワーキングスペースを借りて仕事をしていたときのこと。夜まで働き、あとはもう風呂に入って寝るだけモードの帰路で、共通の友人から電話で呼び出された。ぜひ来てほしいとのことだったので、どうせ帰る途中だしと思い向かうと、はじめましての人が3,4人いた。びっくりした。
その日は開業前の凸工所を案内したりして、それからも街でイベントがあれば時折出会うような仲になった。軽率に誘う力とでも言うのだろうか、また、それを受け入れるためのスペースがあることには、結構助けられてきたのかもしれない。
大人になった今、「あなたたちはこれから友達ね」と指示される機会などない。かなりランダムに人が交わる、クラス分けのような事態がこの街では起こっている。そしてその側には大抵、芋煮やらきのこ汁やら、おいしいご飯も添えられている。2年ほどかけて改装したという明るい部屋でビールやきのこを味わう、平日午後の不思議な昼下がりだった。
夕方からは東京の西側に赴き、いくつかデザインやアートの展示を見て回る。何度か取材させてもらった方やグループの展示が重なっており、まとめて見ることができてよかった。直接作家の方に案内してもらうもの、キャプションや空間まで充実したもの、一見入口がわからないものなど、展示のスタイルも様々だった。
それぞれ楽しく見て回ったが、EXPOとの違いについても頭に浮かぶ。今日各地で見たものは、その作品が目的であって、場所を味わう感覚とは違っていた。良い展示会場であっても、そこに住みたいという発想は持ちようもない。当たり前のことだが、街や居住空間も開いて展示会場とするEXPOの独特な立ち位置を改めて認識した。
一つ、作家さんの小さなオブジェがとても気に入り、人生で初めてギャラリーで買い物をした。初めてのことすぎて、購入のフローもわからず、たどたどしかったし、変な汗もかいていた。 仕事や生活を通じ、また経済状況の変化も併せ、誰かの作品を家に迎えたいと思う機会が増えた。これまでは習慣がなかったので、家にはそういったものを飾るスペースがなく、物を中心にして良い空間をしつらえていけると思うとわくわくする。
自分が暮らすだけでなく、作品を見たり、人を招いたり、そうした余白を意図的に残しておくことが、生活に良い刺激や出会いをもたらしてくれそうだ。
たくさん歩いて帰ってきた曳舟駅の前には、いつも通りシーンとしたバスターミナルが広がっている。何もなさはやるせないが、帰ってきたという感じがして、ほっと落ち着いた。
このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。