京島の10月|29. 語り継がねば消えるもの
凸工所は休みで、EXPOの展示を見て回る日曜日。せっかくなので、来年以降は会期中もう少し長く開けてもいいかもしれない。出展者が他の展示をなかなか見れないのは共通の悩みのようだ。
まずは踏切長屋でのワークショップに参加。商店街の中にある工場が主催するもので、パルプと樹脂を混ぜた丈夫な素材を活用。ポンチで穴を開け、カシメ止めるのもコツがいる。久々にアナログな感じで楽しかった。タオルを敷かないと下の階にも響いてしまうという長屋やならではの光景も。
綺麗に組み上がった箱にテンションを上げ、商店街の高い建物へ。植物をテーマにした展示で、空間の作りと見せ方がとても綺麗だった。会期の最初に生花を飾り、30日かけてドライになったものをみんなに配るそうだ。建物の屋上から眺める風景は、低層の住宅と増えるマンション、スカイツリーの対比が際立っていた。
以前凸工所に訪ねてくれた方の展示にも滑り込み。初めて入る路地を曲がると、かつて伝説的な人気があったという日本酒の店の跡地。自然光だけで十分な明かりがあるほどの穴ぼこな家屋で、無数の砂時計が上下していた。中に詰まっているのは京島の各所で採取した草や土。この辺りの足元に注目する人が多いのは、これといった名物がないゆえ、気にせざるを得ない存在になっているからかもしれない。
近所の花屋でのイベントにも足を運ぶ。写真を見て、惣菜をほおばり、温かな飲み物もいただく。ゆっくり流れる時間の中、着ぐるみを着た集団が現れ、写真の撮影大会が始まった。花屋の外でスカイツリーを望み、2台の着ぐるみが踊る海外の映画が描く、うその日本みたいだった。
本所吾妻橋のサテライト会場まで自転車を走らせる。入口が少しわかりづらかったが、「路地勘」のようなものが働きたどり着けた。墨田区の町工場の変遷を記録した膨大な資料の数々、足で稼いだという話に感心しきり。
京島への帰り道、通路の拡幅で立ち退きになる団子屋の前を通った。ムチムチとしたボリュームのある団子とサービスしすぎな量のあんこやみたらしが好みだった。張り紙には「ようやく東京都から話があり」「皆様にはご迷惑をお掛けし」等々の手書きの文字。そう書かせてしまうほどの過程が胸苦しい。夜空には皮肉なくらいに丸い満月が浮かんでいた。
18時を過ぎ大学の後輩と合流。凸工所を案内したり、気づいたら増えていくメンバーとともに夜の非公式ツアーを楽しんだ。ハーメルンのヴァイオリン弾きのような隊列が可笑しい。各地で壁の写真を集めている後輩は、京島の風景や風の素材にも興奮しているようだった。ただの壁や廃材をそうでなくする、知識や興味がほとばしっていた。
流れる時間は止まらない。建物やお店も無くなっていく。その気配をなかったことにしないためには、語り継くか形にするしかく道はない。夜10時に開く蕎麦屋に、開店時間ぴったりに店主が自転車で乗りつけたあの光景も、誰かに話してみたくなる。
このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。
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