京島の10月|16. わからないに揉まれる
忙しい週末を終え、久々に午前中しっかりと寝る。土日の仕事がメインの人はこういうリズムで暮らすのだろうか。溜まっていた諸々——最近はこういうことばっかり書いてる気がして、自分のキャパシティを超えているようで情けない——を進めるうち、あっという間に夕方になる。
放っておいた自宅の片付けを少しだけして、明治通り沿いからキラキラ橘商店街へ。ちょうど6時になるかならないかぐらいの時間。商店街では、街灯の明かりに照らされ、買い物をする人たちで賑わっていた。惣菜屋でかぼちゃコロッケを買っている間にちょうど6時になり、店内のラジオから時報が流れる。
そのまま道を進んでいくと、角を曲がるあたりでヴァイオリンの音がかすかに聞こえ始めた。普段は6時になるちょうどから演奏を目の前で聞いていたので、その間にも街はいつも通り動いてることがわかって、当たり前のはずなのに、それが新鮮だった。
日を追うごとに、一緒に歌う子供の数が増えているようだ。「この曲知っているの?」「だって毎日歌ってるんだもん」。そんな会話を下校中の小学生たちが交わしている。
演奏後、少しボーッと立っていたら、70歳ぐらいの男性が話しかけてきた。そこにボクシング選手とゆかりがある総菜屋があるだろうとか、その選手を昔見たことがあるだとか、同級生が昔マグロ漁船の仕事で儲けたとか、そんな話を聞いた。全く演奏やEXPOに触れることはなくて、どうして僕に話しかけてきたのかもわからなかったが、全く悪い気はしなくて、結局20分ぐらいその場で立ち話をしていた。
凸工所に着き、EXPOの土産屋で売るための必要な素材を確保する。身近に使ってもらえてありがたい。いつの間にか隣の部屋に明かりがついており、見知らぬ暖簾もかかっているのが気になりつつ、1人でポッドキャストを聞きながら、一時間ほどレーザーカットを行った。未知なる隣人との出会いが楽しみだ。
加工した素材を届ける足で、そのままEXPOのワークショップに参加。毛糸でコースターのようなものを編み、それを使ってアーティストが作品を作るのだという。編み物なんて記憶にないほど経験がなく、何度もその場でやり方を教わったのだが、笑ってしまうほどに進まなかった。
途中「これは!?」と思うタイミングがあったが、何度も前後し、結局は手の動きが楽しくなって、シンプルな鎖編みや三つ編みのようなことを繰り返していた。
ワークショップが終わると、机の上にはたくさんの作品と1匹のキュートなミミズくんが並んでいた。 「これも作品に使うんですか?」と聞かれたアーティストが「Absolutely!」と答えていて、嬉しさ9割、すまなさ1割ぐらいの気分になった。
夜になってから外へ出たはずなのに、何だか濃い体験が続いていた。マグロ漁船が儲かることを教えてくれた男性の素性も、まだ見ぬ凸工所の隣人の顔も、正しいコースターの編み方も。わからないことだらけなのだが、その未知に揉まれる楽しさもまた、この街の魅力なのだろう。
このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。
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