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京島の10月|13. 悪戯せずともお菓子は集まる

日曜ぶりの営業日。機材の利用が1件キャンセルになったので時間に余裕ができ、余ったアクリルでEXPO企画用のパーツを切り出すなどしていた。会期中ということもあり、首からパスを下げた来場者や出展者もやってくる。用がないと入りづらい場所だと思うので、イベント会場の一部になることで、ついでに覗いてもらえることは結構ありがたい。

写真を出展している隣人がふらりとやってきた。いつも他愛のない話をしているのだが、今日は小さな木の箱を抱えていた。自身の写真のポストカードや他作家の作品に加え、見慣れぬ缶ジュースや酒のつまみのようなものも入っている。時期的に、ハロウィンでお菓子を集める子供のようだなと思い、凸工所からのトリートとして3Dプリントで作った鳥の足——スリットが入っていて、カードスタンドにもなる——をあげたら、代わりにポストカードをもらった。奇妙な物々交換である。

多分、あんな感じで会場やお店を回っていたら、あっという間に奇天烈なお菓子の箱が生まれるだろう。非常にわらしべ的ではあるが、それぞれのやっていることや価値観が多様すぎて、分かりやすい長者には帰結しないだろうと確信できるのも面白い。

3Dプリント関連の機器を扱う会社の方が来訪。数年前から仕事でお世話になっており、現在進行形でスケジュールが遅れている案件があり若干気まずかったが、ひとまずは大丈夫そうだった。でもすぐやります。色々話をして、モニター的に3Dプリンターを置かせてもらえたり、3Dスキャナーを融通してくれたりといった展開が生まれそう。

ライターの仕事は記事を納品して終了なことも多々あるが、凸工所という場所があることで継続的に接点を持てるのがありがたい。雑談や来場者対応も交えつつ業務の話、という雰囲気が非常にこの場所らしかった。

日中は日陰を探したくなるほどの天気だったが、日が傾くとグングン涼しくなっていく。営業日は必ず使い続けているキンチョーの蚊取り線香の匂いが、澄んだ秋の夕暮れに馴染んでいく。

心地よく落ち着いた空間の中、黙々と原稿仕事を続ける。その間、時おり利用者さんからの問い合わせを返したり、ここで作ったものの記事を書く話が出たり、日曜日のワークショップの準備を進めたり。機材こそ動いていなかったが、いくつもの企画が並行して進んでいて嬉しい。

18時にはちょっとだけ凸工所を閉めて、夕刻のヴァイオリンを聞きに行く。「一旦閉めているけど近くにいるよ」の印として、スマホの番号を書いた付箋を入口に貼っておいた。気分的には鍵を開けっぱなしでも良い身軽さと近さなのだが、いかんせんPCや危険が伴う機械も多いので、ここは守るべきラインだろう。

今日の演奏は、ライブペインティングも同時に催される特別版だった。10日ぶりに脚立を抑えつつ聴きながら、「いつまでかかるのかしら?通り抜けてもいいんだけけど、スマホのカメラに写りたくないのよね」という方にどう説明すべきか少し悩んだ。

パフォーマンスの目の前では、小さい子供たちが歌詞を覚えて一緒に歌っていた。明日から来月か、それとも何十年後か。このリズムと歌詞を思い出し、口ずさむ日が来るのかもしれない。そういう思い出の粒は、きっと街のあちこちに転がっている。その気になれば、あっという間に木箱はいっぱいにできるだろう。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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