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京島鉢日記|1. はじまりのローズマリー

9:00起床、室温26度、曇り空。

10時のオープニングセレモニーに間に合うようのそのそと動き出す。毎週土曜日は曳舟駅前のすみだ青空市ヤッチャバで野菜を買うのだが、そういえばこれから植木鉢を作るのだから花が必要だと気づく。箱田フローラルサービスに並ぶ花を見て、選択肢がめちゃくちゃあるし、一ヶ月間にわたって育てられるのか?などと不安になる。結果、すでに咲いている花ではなく、まだ植物然としたローズマリーを購入。いい香りがする。

凸工所に移動して、10時のオープニングセレモニーを見届ける。去年と同じく曇り空、雨もパラパラと降ってきて「誰かしら雨男雨女、雨人間がいるのでは」と誰かが独りごつ。開会の挨拶でルアさんが「この街にはたくさんの種がある」と語り、そうか種から育てる選択肢もあったなと気付かされ、1〜2週間で育つ植物を考えてもいいなと思った。


本日の鉢『ローズマリーの仮宿』

さて、今日から植木鉢を毎日作るわけだが、僕は植物に詳しくないし、ゼロから全部調べるのも骨が折れる。毎日続ける大変さは去年いやというほど味わったので、まずは真似から始めよう。

購入した状態の鉢——植え替え前の仮宿とでも言えばいいのだろうか——をよく眺めて3Dモデルに起こしていく。縦横に入るスリットや、底面に空いた穴等をまじまじと見つめ、その理由もわからないまま再現する。その日のうちに印刷が完成すればいいのだが、実寸で出力するには時間がかかるため、間に合わなそうなら縮小版で勘弁願おう。実寸は夜に出せば良い。

縮小版は Flashforge PLA、実寸はePLA-Matte で出力

白い素材で真似をしただけの、フラットな形。何もわからないなりに手を動かしているうちに、形状の工夫や理由も見えてくるのだろうか。シンプルな形状だが、3Dプリントすると隙間や糸引きが出るなど、難しいポイントもあるようで、鉢道の第一歩に踏み入れた感じがした。


EXPO初日の凸工所には、出展者やサポートメンバーの人たちが訪れた。まだ僕の展示は始まったばかりなので、去年の企画から生まれた書籍「京島の十月」と、今年の企画説明を置いて茶を濁す。夕方、un-persの坂倉さんがやってきて、展示物のキャプションを金属に彫刻したいとのこと。凸工所のマーキング装置を使って仕上げ、なかなか良い具合に。

僕の初日のぼんやり感、スロースタート具合は去年と似ているが、最初から言葉を交わす人や一緒に手を動かす人が増えたのは大きな変化だ。街のあちこちで驚き楽しむのみならず、提供者側への変化も起きているのだと、周りの人たちが教えてくれた。

このnoteは「すみだ向島EXPO2024」内の企画、京島鉢日記 / Kyojima Pot Diary として 淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

編集後記

初日夜、日記のアップを終えてからオープニングのレセプションへ。全展示とイベントを紹介していたようだが僕の番は過ぎていた無念。ちょうど雨が止んだキラキラ会館前のスペースに長机が並び、ベールのような和紙で覆われルアさんのパフォーマンスが始まる。キラキラ橘商店街のお店で購入した食べ物や、この土地を意識した色のソースで次々と彩られていく。神秘さも宿る動きを見守る最中、端っこから誰かの口ずさむリズムが聞こえ、そういう演出かと思ったが完全に個人のアドリブだった。

しばらくしてテーブルが完成。「京島です!」と勢いよく紹介されオォッとなる。夜8時を過ぎた小腹の空きに、小麦と野菜と色彩を美味しくいただく。卵焼きや串焼きはあっという間にさらわれ、コッペパンでソースを掬いながら焼き芋や漬物を食べ進める。最後の方は大体がしょっぱい系の漬物で、なるほど確かにそういう味が好みの年齢層/街なのかもしれないなと一人感じていた。

鉢植えの投稿を見た友人たちから色々な情報が送られてくる。こんな鉢があるよ、ローズマリーはこう食べるといいよ。みんな鉢好きだな!と思ったが、植物の先には花や果実があり、食とも結びつくとなればさもありなん。目や鼻で愛でるのはもちろん、土からは食の恵みも育つではないか。花と森、そして種と食。買い物だけで忘れかけていたつながりを、商店街のど真ん中で思い出した。


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