長く大切に使えるレザーアイテムを、自分の責任でつくり続ける。totokoko 工藤智未さん
墨田区京島のものづくりスペース「京島共同凸工所」のユーザーと、その制作物をご紹介。今回は、墨田区のアトリエでレザーアイテムを制作する、totokoko(トゥートゥーコッコ)の工藤智未さんです。
自分で想いを形にするためのブランド
——totokokoを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
バッグ業界で企画の仕事に10年ほど関わっていました。会社では一つの製品を作るのにも、プロセスごとに部署や担当者が分かれていることが一般的です。私が勤めていた会社でも、企画を立てたり、スケッチや型紙を描いたりするチームと、実際に手を動かす職人さんたちとが分業していました。
私は企画の仕事がメインでしたが、いつかは自分が良いと思うものを企画して自分の手で製作し、お客さんの顔を見て、メンテナンスまで手がけたいと思っていて。お世話になっている職人さんに学びながら、手を動かして革製品の作り方を学んでいきました。
——会社に勤めながら自分のブランドの準備をしていたのですね。
そうですね。本格的に取り組もうと思ったきっかけは、突き詰めたいと思える表現や素材と出会ったことです。何度も実物に合わせて型紙の調整が必要だったり、全て縫製した後に染めるというイレギュラーなプロセスだったり……。部署ごと・担当者ごとに進む直線的なプロセスでは実現しづらく、企業での製品化には向かないアイテムだったので、自分で最初から最後まで手がけようと思ったんです。
——手間がかかるものだからこそ、最初から最後まで自分の手で作ろうと思ったのですね。
自分名義のプロダクトとして責任を負うわけですから、製品のクオリティチェックはいっそう厳しくなったと思います。いわゆる「ハンドメイド」のような肩書きに甘えることなく、企画からデザイン、サンプルから製品づくりまで全て丁寧に手がけている自負があります。
素材に感謝し無駄なく使う、Pochette project
——新作「ポシェットプロジェクトNECO⁺plus」の一部に、京島共同凸工所のレーザーカッターを使っていただいています。どういう経緯で始まったシリーズなのでしょうか?
製品を生産する過程で、まだ利用価値のある革が捨てられてしまう場面を見たことがきっかけです。革自体の品質は良いものであっても、生産工程のなかで必要とされなければ、端材として簡単に廃棄されてしまうんです。
また、問屋さんから素材を仕入れる際にも、10枚1セットのようにまとまった量が必要で、それ以外は「余剰革」として行き場を失っていたりします。このような捨てられていた端材や余った素材に再び命を宿すことを狙って、Pochette projectの製品作りを始めました。
デザインについては、シンプルでスタイルを選ばない機能的なものを意識しています。素材を大切にして、無駄なく、長く使ってもらうために、流行り廃りに影響されない実用性を重視しました。
小さなキューブ型のほか、ペットボトルや長財布も入るスクエア型も好評です。今でこそ端材を使うことはなくなりましたが、素材に感謝した無駄のないものづくりという意識は変わりません。もったいない精神を持ちながら、長く使い続けていただくことで未来に繋げたいと思っています。
——シンプルな形状が特徴のPochette projectですが、新作「ポシェットプロジェクトNECO⁺plus」ではアイコニックな猫が添えられています。
家族と暮らしている中で、キャラクターが持つ力に気付かされました。バッグは毎日使う物だから、ペットと過ごすような感覚で連れ歩き、自然と口角が上がるようなアイテムを提供したいと思ったんです。イラストレーターの方に描いてもらったデザインがすごく良かったので、なんとかレザーで表現したいと思うようになりました。
でも、今まで通りの作り方では、このイラストを表現するのが難しくて……。柄が細かく分かれているので、金属で打ち抜き型を作るには複雑すぎるし、縫製ではステッチ(縫い目)の跡が目立ってしまう。どうしたものかと悩んでいた時に、データ通りにパーツを加工できるレーザーカッターであれば、現実的なコストで作れるとわかったんです。
——データ通りに素材の彫刻やカットができる、レーザーカッターの特性が生かされたのですね。
そうですね。ただ、加工後のパーツの後処理や、パズルのように組み合わせる作業は、すべて自分の手で仕上げています。作業の工程が複雑すぎて、なかなか他の人にはお願いしづらいですから。自分で最後まで面倒を見るからこそ可能なプロダクトであることは、これまでのtotokokoの製品やPochette projectと変わらないポイントだと思います。
製品を通じて街や人とつながる
——墨田区や京島との繋がりについてもお聞きしたいです。工藤さんはどうして京島にやってきたのですか?
勤めていた会社が台東区にありました。生地や金具を扱う会社が集まる浅草橋という場所で、たまたま仲良くなった生地屋さんに誘われて、京島に遊びに行ったんです。その後、近所の物件を管理している後藤大輝さんを紹介してもらいました。そこから、京島界隈で活躍するクリエイターのお宅を数件案内してもらったのがきっかけで、京島エリアに越してきました。
——そうだったんですね!僕が初めて工藤さんの作品を見たのは、京島での展示イベントだったように思います。
京島駅でも何度か展示をやっています。すごく雰囲気のいい縁側があって、使わせてもらったんです。京島駅で出会ったヒロセガイさんは、ご自身もアーティストだから、製品の扱いも丁寧だし、空間の作り方も上手い。一晩であっという間に素敵な空間を用意してくれる、仕事の速さにも驚きましたね。
展示とすみだ向島EXPOの準備期間が重なっていたこともあって、色々な人と知り合いました。EXPOに出展しているアーティストさんや、近所の人が製品を買ってくれることもあって。よく製品の撮影や展示をさせてもらうoff coffeeの堀内さんとも、そのあたりで初めてお会いしたんじゃないかな。off coffeは朝日の入り方がとても綺麗だし、インテリアも魅力的なんです。
——展示をすると知り合いが増えるのは、すごく京島らしい光景ですね。
京島共同凸工所がスタートしたのも、すごく良いタイミングだったんですよ。Pochette projectの新作もレーザーカッターで試作はしていたけれど、当初機材を借りていた場所だと条件がなかなか合わなくて。近所に凸工所ができたおかげで、一年半越しにようやくアイデアが実現できそうです。
——そう言ってもらえると嬉しいです!新作のリリースも楽しみですが、今後の活動予定はどのようなものでしょうか?
新しいアトリエとして、明治通り沿いの7軒長屋の物件に2024年4月から入居予定です。京島のクリエイターやEXPOなどのイベントを応援している、地域の大家さんである深井さんから歴史ある長屋をお借りすることができました。
信頼できるヒロセガイさんたちのチームに施工を依頼しているので、仕上がりがとても楽しみです。長い間自分の活動を続けてきて、ラインアップも増えて、在庫も管理する必要が出てきました。仕事を安定して進められそうな環境も整ってきたので、ようやく、という感じですね。
やはり、Webサイトの販売が中心だと顔が見えないので「実物が見たかったらここに来てください」と言える場所が欲しかったんです。作る場所と、保管する場所と、売る場所を一緒にしたくて。いろいろ準備が整ってきて、余計なことを考えず、環境づくりに集中できるようになってきました。今後はワークショップなどの体験型イベントも企画していきたいと思っています。
——新アトリエの始動やワークショップなど、楽しみなことがたくさんありますね。引き続き、よろしくお願いします!
〜 この記事に登場した場所や人たち 〜
◆ totokoko|https://totokoko.jp/
◆ 京島駅|https://maps.app.goo.gl/JgpFGYGgxf57oMJC7
◆ ヒロセガイ|https://www.instagram.com/guyhirose/
◆ すみだ向島EXPO|https://sumidaexpo.com/
◆ off coffee|https://www.instagram.com/off__coffee/
※ 記事中の写真は全て、工藤さんから提供いただいたものです。
🐈 🐈 🐈 🐈 🐈
京島共同凸工所は、墨田区京島にある街にひらかれた工作室です。3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル機材も使えます。機材の利用や制作相談など、お気軽にお問い合わせください。また、この記事が良いと思った方は「スキ」を押していただけると嬉しいです!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?