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寄付はどうやって集めるの?

前回は、学校を創る際に、とくに補習授業校を立ち上げ 安定的に運営するために知っておいてほしいことを説明しました。しかし、学校の枠組や運営組織が整ってきて、やがて日本人学校・日本人高校を創りたいという機運まで生じると、新たな方策が必要になります。
その段階では、支援する人だって、趣旨に賛同し いっしょに “夢” が見たいから協力してくれるのです。その点は 国内校も海外の日本人学校等でも同じです。また、政府や企業・団体等であっても、その事業に対して「十分な公益性や必要性」が公に認められないと、寄付の担当者は 限られた資金の中から拠出する手続きがとれません。
ここでは、学校の体裁がある程度整った段階で、支援や浄財じょうざいを どうやって集めるのか、これまで学校経営にあまり関わりのなかった皆さんを想定して 易しく説明します。


応援したいと思ってもらえる?

私立学校が一種の「財団法人(Foundation)」であることは 既に説明したとおりです。まずは学校というものが、「教育理念」「運営方針」等に賛同した法人・個人からの「寄付(Donation)」が集まった基金(Fund)として成立していると考えてください。
通常の運営・維持資金は、入学金・授業料・施設費などの “学費”(在籍者の保護者が負担)と、政府が都道府県知事経由で交付する助成金等で賄われますが、校地を買ったり校舎を建てたりする大きな資金は、「寄付」に頼っているわけです。

「寄付」には、無償で提供されるお金のほかに、品物や不動産などを無償提供する「寄贈/物品寄付」もあり、会計帳簿上は “時価” に換算するなど金額に換えて管理されます。
そのほか、労働奉仕(時間と労力を無償提供するボラティア)や モラルサポート(各々の立場でする広報・宣伝、口コミ・SNS配信での応援 等)など金額に換算できない寄与も 「寄付」といえるのですけど、こちらは一般に「その他の支援(Contribution)」と呼ばれます。

学校に寄付をした場合に、日本では 税金を免除してもらうための基準が 欧米諸国に比べて厳しくて(税をあまり軽減してもらえない)ので、一般に寄付をためらう傾向にあります。年収が 1,000万円以上ある人のうち、欧米では約9割の人が寄付をするのに対し、日本では約1割という説もあります。
もちろん、数万円程度の寄付で税額控除を申請するのは億劫おっくう(だから統計上に現われない)ということもあるし、「いったん寄付したからには、学校が何に使おうと、どういう経理処理をしようと、気にしない」というのが、日本人一般の感覚です。その学校を応援したいわけですから。

学校への寄付金に対する税制優遇

学校に寄付した場合の免税については、文科省の「寄附金関係の税制について」のサイトをご覧ください。
例えば、年収 700万円くらいの人(夫婦と未婚の子2人)が10万円寄付すると、所得税は 32,000円前後免除されます。一方、企業が学校に寄付した場合は、所得金額の約 160分の1までなら「損金算入」できる(“経費”として落とせる)ものの、一般にあちこちに何件も寄付させられているので、「税の減免はほとんどない」と考えられています。

それでも、卒業生は母校の発展を願っていますし、企業・団体も 好い教育活動をするであろう学校は応援したいのです。まして、我が子が本当に楽しく通い、ぐんぐん学力を伸ばし始めると、「もっと教育環境を充実してほしい」と寄付をする保護者は少なくありません。
また PTAや同窓会が主催して「〇〇バザー」「△△オークション」「××公演」などを開催する等の募金活動(Fund-raising)も行われます。

日本人学校のインド系職員の結婚式。祝儀はインド系地元校に寄付(マレーシア)

余談ながら、私が広尾学園に勤務していた時のエピソードを・・・・・。
編入生の制服採寸に子どもを連れて来た母親が、「小山先生、ちょっと・・・」と物陰に私を誘って こう言いました。「入学案内書に『寄付金1口 1万円』と書いてあったのですが、寄付申込書に『300口』と書いても失礼ではありませんか? 主人に確認して来いと言われました」
私は恐縮して、「ありがとうございます。遠慮なく『300口』とお書きください」と答えましたが、次年度から「1口 10万円」と直しました。翌年からの寄付金収入は20倍以上に増え、校舎の改築が可能になりました。

つまりは「どういう特徴のある教育サービス、あるいは “学びの場” を提供するのか?」が明確にわかり、「応援したい」と思ってもらえることで、学校は成長・発展できるのです。個人が寄付する時、税金なんか気にしません。

「学校債」という “妙手”

学校がまだ多額の寄付を集めるのが大変な時期には、「学校債がっこうさい(School Bond)」を買ってもらって “当分の間の運転資金” を集める方法もあります。これも借金に変わりはないのですが、利息を低めに(場合によっては無利子にも)設定できるし、インフレの進む社会では、“実質的なマイナス金利” にもなり得ます。

しかし、かつての文部省は「学校債の発行の抑制(同窓会とPTAのみを対象)」と「生徒募集にあたっての学校債購入の任意性確保」を長年にわたって求めていました。学校債の購入を “入学の条件” とする学校が多かったからです(海外は文部省の法律が及びませんので、日本人学校・日本人高校が “入学の条件” としても問題ありません)。
ところが 1999年、行政改革規制改革委員会が「学校債の活用」を提案し、2001年に文部省から「文部科学省」に組織替えが行われると、広く一般人を募集対象に含めることを可能とする通知が出ました。

海外の日本人学校等の場合、現地の通貨と日本円との為替レートの変動にも気を使います。教材・教具、副読本や副教材・ドリル類を、日本から取り寄せることが多いからです。
もし、現地通貨が日本円に対してフロート・ダウン傾向(=円高が進む)なら、「現地通貨建ての学校債」の収入を 直ぐに円建て口座に入れるか、日本の業者に送金してしまいます。
例えば、私がジャカルタ日本人学校に赴任した時は 1円=1ルピアでしたが、3年後に帰国する時には、1円=4ルピアになっていました。当時の駐在員の平均任期は約4年でしたから、同時期に赴任した駐在員の皆さんには、学校債の額面の4分の3以上を寄付してもらっていたことになります。

さらにいえば 学校債は、償還期限がきても そのまま放置してくれる会社や人が 結構あるので、“実質的な寄付” の状態になり易いのです。会社なら、タイミングを見計らって “経費処理” もしくは “債権放棄” しているようです。

学校債は還してあげましょう

日本人は律儀ですから、学校債は「償還を申し出れば かえしてもらえるのが当たり前だ」と考えますが、欧米系の学校やインター校では「停止条件付きの寄付金」と考えられています。つまり、「お世話になったと感謝できれば、寄付していくのが当たり前」と考えるわけです。

私たちが日本人学校からインター校に進学・編入する子の手続きを取っている時に、「日本人は どうして学校債(*)を還せって言うの?」と嫌味を言われることが、時々あります。(* 通常は 米ドル建て)
「だって『転出時に還します』って書いてあるじゃないですか」と言えば、「感謝がない国民性なんだね?」と さらに嫌味を言われたりします。こちらは「感謝されるだけの教育をしろよぉ」と内心で毒づきますけど(笑)。

もちろん 数年後にその学校を転出する時には、さすがに教職員は そんなことを言いません(還さないのは債務不履行ですから)。要は「(何かと世話が焼けるので)よほど優秀な生徒でない限り、日本人学校からは入学させたくない」と考えているだけなのです。
だから、どうせなら出願時に「〇百米ドルを寄付させてください」と言った方が、その後の扱いが はるかに違います(もし確認されれば、「学校債(券)を寄付します」と涼しい顔で言います)。
現地校やインター校では そういう考え方が “常識” になっているので、「長期滞在者」も 同様に思い込み易いのですが、新たに赴任してきた人には、不用意にそれを言わないようにしましょう。(”嫌がらせ” と受け取られます)

なお、学校債は “いつまでも残っている借金” にもなり得るので、管理する事務の手間がかかります。
将来、償還を巡ってもめるくらいなら、「日本人会/クラブに入会しないご家庭には、差額授業料(会員より高い金額)を払っていただきます」という方式のほうが、よほど無難です(運営母体が ほぼ一緒ですから)。

ダルエスサラム補習授業校での「Super 2's Day」。教室はフランス系インター校を借用

次回は、いよいよ 「日本人学校・日本人高校の開校の切り札」について説明します。

海外に学校を創るためには?
上海日本人学校高等部の設立準備プロジェクトの記録
パリの日本人高校/山下アカデミーのプロジェクト
グローバル化社会の教育研究会(EGS)


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