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アパレルの夏のセール、なぜ6月?

前回は、夏のセールは盛夏アイテムの売れ残りの早期在庫処分と、その穴埋めとして晩夏アイテムを早く出して店頭鮮度を上げたいのが理由だ、と話しました。これはどちらかというと、マーチャンダイザー(MD)側の理屈です。もう1つは少し外的な要因です。個人的な実感も正直あります。

前年比対策のやり過ぎ

やり過ぎ、というと言い過ぎでしょうか。
これは、ショッピングセンターが台頭してきた2000年から少しずつ始まってきたのではないでしょうか。かつて三菱商事とイオンが共同出資で設立されたディベロッパー企業で「ダイヤモンドシティ」と言うのがありました。三菱だけにダイヤモンド、わかりやすいですよね。

1990年代後半からイオンモールに吸収合併されるまで、全国にかなり大型のショッピングセンターを建設し、各地で大きな賑わいと売上を上げていました。特に地方の郊外に、都心でしか買えないような名前の知れてるブランドを誘致し、地方の活性化に一役買っていたりしました。大型ショッピングセンターを運営しているディベロッパーは当時あまり他になく、三井不動産のららぽーと系など数えるくらいでした。

それだけ話題になると、他の企業も次々と参入してきます。ららぽーともそうですが、イオンも後の吸収合併の元となるイオンモールを設立し、ユニー系列のアピタや西日本だとイズミの「ゆめタウン」系も商圏を広げたりしていきます。

そうしたことがきっかけで、あっという間に地方の郊外に様々なショッピングセンターが大小乱立していきます。ショッピングセンターが立つと、地元の商店街や駅前の商業施設の売り上げが大きく落ち込んでいきます。この辺りから、地方の商店街で閉店を余儀なくされるケースが目立ち、地元住民が大型商業施設の建設反対運動を巻き起こすなど、社会問題化していきました。

当のショッピングセンターも、何もない郊外でどっしり構えて安泰、と言うわけではなく、車社会の地方では商圏が被るような立地で新規のショッピングセンターが建設されたり、2010年頃には早くも飽和状態になりつつありました。わずか10年です。

そうすると、あぐらを描いていたショッピングセンターの運営も徐々に売り上げが下がっていき、あの手この手で集客しようと躍起になります。特に先にあげたダイヤモンドシティは2006年にイオンモールに吸収合併され、売り上げ獲得に対する凄まじい執念を感じるほどでした。

特に「対売上高前年比」へのこだわりはすごく、この実績を取るために

  • 営業時間の拡大(閉店時間の延伸、開店時間の早期化、24時間営業)

  • 定期的なディベロッパー独自の割引販売施策

  • 独自のクレジットカードでの優待セール、囲い込みへ。

などなど、あげたらキリがないです。
その中に
セール開始時期の前倒し
が挙げられます。

以前は、割と遅かったと思います。7月入ってからで、夏休み前くらいのあたりからが割と普通でした。原宿のラフォーレはセール開始時期が昔から変わらないのですが、それが大体7月の末のスタート。1ヶ月以上も前倒しされています。

セール時期を前に倒せば、需要の先ぐいで売上が一気に上がります。2008年のリーマンショックで世界経済が一気に落ち込むと、日本経済もその余波を受け、家計にもあっという間に響いてきます。そうしたことも背景にあり、昨年よりも1週早くセールしよう、となり、結果的に6月の中旬くらいまで前倒ししてしまいます。

これより先は、流石に早い、と思ったのかこれ以上は前にいかなくなりましたが、その時期が定着し今に至るようになります。

実は、これと同じ現象が、冬にはあまり起きなかったんです。冬は正月の「初売り」があるためです。こればかりはどうにも動かせない。また12月はボーナス時期ということもあり、タイミング的にボーナスが支給される12月中頃のセールスタートで落ち着いた、というのが背景にあると思います。考えれば、6月も同様ですね。ボーナス時期とセールスタート時期が重なります。

ただ、秋冬は独自の「前倒し」の動きが最近ありました。
ブラックフライデー」です。
11月23日〜25日ごろの金曜日からスタートするこの動き。
もともとはアメリカの感謝祭の翌日に、その感謝祭関連の商品の売れ残り在庫を一掃する目的のセールが起源で、それが11月第4木曜日の翌日、そして慣例的にこの日が休暇日となることが多いため、この日からのセールが定着化したようです。

この日はアメリカの小売業界では1年で1番売上を稼ぐ日として「ビックフライデー」と銘打っていたが、新聞社がその報道で「お店が儲かって黒字になる日」と謳ったことから、「ブラックフライデー」と呼ばれるようになった、との説があります。

これに目をつけたのが、「イオンモール」でした。きっかけは「ハロウィン」。10月末までハロウィンで装飾などで館内が賑わい、11月から一気にクリスマスになるのですが、12月のボーナス商戦になるまで、11月はどうも売り上げが振るわなくなってきていました。以前は11月は冬物がよく出たんですが、最近の温暖化で重衣料が売れるタイミングは12月に入ってから。まさに、11月は「小さな閑散期」となってしまったわけです。

そのカンフル剤としてアメリカの真似をして「ブラックフライデー」を2016年頃から仕掛け始めるようになりました。もちろん、割引施策なので集客もあり、売り上げも伸びます。ただ、結果的にその分在庫が目べりするだけで、12月の売るものが少なくなり、12月や初売りの売り上げ減の間接的要因にもなっていたりします。

と、このように、果てしない「売上高対前年比」の数字を上向きにするべく、ディベロッパーの執念によってセールは前倒しされていくわけでした。
ところで、ディベロッパーはなぜここまで前年比に拘るのでしょうか。

もちろん「株主・ステークホルダー」からの評価が「収益の成長度」だからです。ディベロッパーの収入源は、各テナントからの「家賃」です。最低保証などもありますが、大体は売上比率○%というもの。テナントの売上が上がれば、その分家賃収入が増えるわけですから、躍起になるわけです。

こうして、季節に関係なく、夏は6月にセールをやるようになったわけです。

しかし、やはりそれはおかしいわけですよね。アパレル業界はそれでは利益にならないですし、この動きが在庫過剰を招き、在庫廃棄を間接的に誘発させている要因でもあるわけです。売上を上げることは大事ですが、これからはもう少し違った形で考えていくことが求められていると思います。


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