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沈香の香り

 
  ミュウがまた今夜も私につき合ってくれている。 
 ――おいおい、そんな狭いところでお尻を舐めないでおくれよ
 私の心の声が聴こえたのか、不意にこちらへ顔を向けた。
 目が合う。なんか文句があるのか、というきつい眼光をしている。
 ――おっと。文句はありませんが、ただ……
 また届いたのか、捨て置くように何事もなく先ほどと同じ行為に耽る。
 よくもそんなに足をぴんと上げていられるものだと感心する。
 ――できれば、というかもっと広いところでなすったら、と。その方がよろしかろうかと。
 ええっ? ほんとに聴こえてるんじゃないか。
 ほっといてくれと言わんばかりに尻をこちらに向けて、香箱座りに。
 思わず知らず、頬が緩む。

「こうばこすわり」と入力して変換された文字が「香箱座り」。見慣れぬ表記に自信がなく確認のため検索に掛ける。
「猫がリラックスしている時の座り方」とある。間違いない。
「香箱」とはそもそも何ぞや。興味が湧き、検索。
「香箱(こうばこ)は、香木、薫香料を収納する蓋付きの箱。茶道具や香道の道具であるほか、宗教儀式において香を用いるために宗教用具としても用いられる。また、香箱は裕福な家の娘の嫁入り道具のひとつでもあった」(ウィキペディア)

 ――なるほど。ならば……
 香皿を引き寄せ、一番高価な、最高の癒しとリラックスをもたらしてくれる「沈香(じんこう)」のお香に火を点け、立てる。
 それをミュウのお尻近くにそっと置く。
 悪戯心が湧いて、おりん棒でおりんの内側を、円を描くように撫でてやった。 
 
 

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