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随筆|非日常的な日常

私にとっての日常は、誰かにとっての非日常かもしれない。ある時、家の近くの売店の写真を撮っている人達を見かけた。彼らは観光客で、売店の写真をキラキラしたまなざしで見上げ、何枚も写真に収めていた。そして、とても嬉しそうに飲み物を買っていた。

私は彼らの行動が不思議だったけれど、家に帰ってから、「海外に行けた時や母国に帰れた時、私も同じことをしているかも……」と思った。

道路の標識、スーパーに並ぶモノ、電車やバス。そこに住んでいる人にとっては当たり前の風景だとしても、私には新鮮で素敵なものだった。私の非日常は、彼らにとっての日常で、私にとっての日常は、彼らにとっての非日常なのだと気づいた。

私は私にしかなれないけど、他の人になりきってみることはできる。それからは、ふとした時に目を閉じて「誰か」になりきる遊びをしている。

中国に来ることを夢見てはじめて中国に来た外国の人。
30年ぶりに故郷に戻ってきたお婆ちゃん。
転勤が決まり、感傷に浸っている会社員。

そうやって架空の人の視点を自分の中につくってみると、いつもの帰り道が全く違う景色に見える。毎日見るお店の看板すら写真を撮りたくなるし、「こんな建物あったっけ?」と新しい発見がある。空の色にすら感動してしまうこともある。

「毎日が同じでつまらない」そんな悩みは誰にだってあるはずだ。

日常から抜け出し、いっときの非日常を味わう方法はいくらでもある。だけど、私たちは非日常の中だけに生きることはできないから、日常をどうやって楽しむかを考えることが必要だと思う。

もしかしたら私にとって、弓道稽古も非日常的な日常生活かもしれない。


【追伸】ひと昔、中国北京に移住していたため、上記は「中国」という表現を。現在は台湾に帰国した。



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