好意の返報性
心理学に「好意の返報性(好意的回報性)」という言葉がある。人は、自分に好意的な言動を示す人に好意を返す傾向があるという。
政治評論家の小林吉弥が、大蔵省の担当記者から取材したエピソードである。
田中角栄は大蔵大臣在任中、省内の廊下で若手課長とすれ違うと透かさず一言かけた。「おう、○野○夫くん、×月×日は結婚記念日じゃないのか。今度一度、奥さんを連れて目白のほうに遊びに来いや」
これで気分の悪くなる人間はいない。
フルネームで名前を呼ばれ、おまけに自分の結婚記念日まで知っている。人間誰しも、自分に好意と関心を示す人物には親近感を抱く。くだんの大蔵省担当記者は「田中角栄は、大臣としての能力の抜群だったが、この手で省内に”ファン”を増やしていった空く面がある」と感心していた。
長年、田中派の金庫番を勤めた佐藤昭子も、田中角栄を評して「あの人は、人が頼ってくると自分の悪口を言っていた人でも、『ああ、いいよ。どうぞどうぞ』という調子なんです」と言う。これはもはや計算ではなく、生まれつきの性格なのだ。
「人にはいきづらい場所と行きやすい場所ってあるでしょ。角さんのところに行けば、なんとかしてくれるだろう、となる。これは台所の苦しい時でも同じでした」