斜め

フランス語は嫌いだ。第二外国語の授業にておフランス野郎に「こんなのできないなんてミゼラブルざんす」と罵倒されたからであるが、妻はフランスへ留学したことがある。フランスへのワーホリか結婚かの二択となり、不可解にも結婚を選んだ。私との結婚なら、私はワーホリを選ぶ。

それが故に、新婚旅行は当時平和だったシリアに行きたいという希望は検討の俎上にすら載せず、タヒチとなった。

ボラボラ島。地上最後の楽園とはまさにここである。青い空と海、白い砂に辛酸はすっかり洗い流された。水上コテージのリビングのテーブルはガラスとなっており、海面を覗くことができる。いわんや、テーブルを開けて泳ぐ色鮮やかな魚たちに餌をあげることができる。私はここにいたい。

二日目の昼下がり、魚に餌をあげようとテーブルを開けたその刹那、買って3ヶ月のiPhone3GSがくるくると斜め下に落ちていき、ちゃぽん……。

テーブルの木枠とガラス面の境目に斜めにiPhoneを置いていたのを忘れていたのだった。魚たちは驚いて逃げ、群がってきたのは真っ黒のウニであった。iPhoneはウニに囲まれタヒチのラグーンの藻屑と消えてしまった。

もうどうしようもないので、リゾートを謳歌するしかなくなった。