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はじめての一人海外

赤き血のイレブン、ララ浦和レッズ。世界に見せつけろ、俺たちの誇り。

初めてアジア・チャンピオンズ・リーグに出場した我が浦和レッズのアウェイの闘いをこの目に焼き付けるために、インドネシアの地に降り立った。数少ない友だちは誰も付いてこない。そもそも誘ってもいない。もういい歳だったが、はじめての海外一人旅である。

ゴールデンウィーク明けの週の水曜日という有休取得に最悪な試合日程。月曜日の午前中だけ出社してアリバイを作り、火曜の朝、ジャワ島のソロ空港からタクシーに乗り込む。

試合までジョグジャカルタで観光したいから、ソロ中央駅に行ってくれと言った。

駅に着くと、ターミナル駅とは明らかに装いの違うローカル駅であった。違う。ここではない。しかし、タクシーはもう行ってしまったのだ。

はじめての一人海外旅行で、知らない駅に放置された。ローカル駅にスーツケースを脇に日本人が一人、呆然としている。ここはどこだ?

大宮に行きたいから上野駅に行ってくれとタクシーに乗ったら大宮に少し近いからと尾久駅に連れて行かれたようなものであった。横浜に行きたいから品川駅に行ってくれとタクシーに乗ったら西大井駅に連れて行かれたようなものでもある。

何人か?日本人か。小野伸二は知っている。3-0でインドネシアが勝つからな、遠いところからご苦労さんなどと話しかけられながら、1時間ほど待つとジョグジャカルタに行くっぽい列車がやってきた。やれやれ。

1時間ほどでジョグジャカルタ駅に着く。宿も何も決めてない。頼りの案内所には誰もいない。スーツケースを脇に呆然としていると、ガイドが話しかけてきた。飛んで火に入る夏の虫とはまさに私のことである。いいホテルだと人力車に乗って連れて行かれたのは、ネズミの出るホテルだった。市内観光案内してくれる。レストランの予約をしてくれる。朝から暗いうちに起こしてくれる。ボロブドゥールの日の出に連れて行き、プランナバン寺院に連れて行ってくれる。予約していたソロのホテルまで送ってくれる。スタジアムへの行き方も教えてくれる。

Tシャツを交換しないかとガイドがねだってきたので、浦和レッズのTシャツを手渡した。自腹で買ったTシャツなら無碍に断るが、予備の貰い物であるから気前よく。

彼がくれたのは闘争民主党メガワティ・スカルノ党首のTシャツ。デヴィ夫人の義理の娘のTシャツである。

待ち望んだ過酷なアウェイであった。野人岡野は躍動し、3-3のドロー。相手チームが得点を決めるたびに、作の向こう側から何やらよく分からない植物の束が投げ込まれ、真の殺伐したフットボール文化を存分に楽しんだのである。

試合後、カエルを喰らうと翌朝はもう帰国。シンガポール経由で、金曜日の朝に成田からそのまま会社に向かうアリバイをするため。

サポートしてもらって飲む酒は美味いか。美味いです。