藤井風アジアツアーライブレポ(クアラルンプール)
マレーシア・クアラルンプールへ
藤井風のアジアツアーへ参加してきました。僕はマレーシアと韓国に参戦予定、今回はクアラルンプールのaxiata arenaで行われたライブについての簡単なレポを書きました。最初は地下鉄などを使って普通に行こうかと思ったのですが、マレーシアではGrabというアプリがとても便利で安いので重宝しています。呼んだら5分くらいでホテルに迎えにきて30分もかからずaxiata arenaに着いてしまいました。地道に行くと1時間以上かかるうえ、最寄駅まで徒歩7分歩いただけで汗だく、地下鉄を乗り継いでさらに会場まで徒歩で再び汗だくになるところなので、Grab最高!今日などは昼間に仕事で公園に調査(遊具のフィールドワーク)に行っていたので、その移動手段としても使い、終わってからホテルに戻って(外に出たくなくなって)やよい軒を配達してもらったほどです。
今回のアジアツアーはシンガポールに行っていないので初参戦。ちなみに妻は初日のシンガポール公演に一人で参加。我が家は子供が小さいうちは、基本ライブに行きたい人は一人で行き、もう一人が家事や子供のことをやることになっているので、地方でも海外でも好きに行けることになっております。なので僕も妻も藤井風のライブは全国なら全会場(別々に)申し込みます。それでも当たるのは1〜2個、全部落選ということもあります。海外はお金もかかるので全部は無理ですが、厳選して僕がマレーシアと韓国、妻がシンガポールと台湾に行く予定。
2024年11月2日(土)のクアラルンプールは20時開演と遅め。開場は18時だったので、そのくらいに現地に行きました。ファンがすでにたくさん集まっていて、周りからはかなり日本語が聞こえてくる。現地の人もたくさんいるけど、予想以上に日本からの参加者が多い印象。グッズでTシャツはXL以外すでにソールドアウト。妻さんは推し活が凄くてライブに行くだけでなく、グッズなどもほとんどゲットしている一方、わたくしグッズなどにまったく関心がなく、椎名林檎のライブによく行くのですが、基本手旗くらいしか買わない。風グッズの帽子は残っていたけれども、妻さんがすでに買っていて家にある。これは買っても意味ない。ということで、特に何も買わずに開場を待つ列に並びました。皆さん写真スポットでたくさん撮って楽しんでいます。
どんな人がいるのか観察していたら、日本から参加していた30〜50代の女性集団が多かったような気がします。3連休ということもあって友達同士で連れ立って海外旅行も楽しむというケースでしょうか。もちろん20代のカップルとか、友達同士の参加もそれなりにいました。列に並んで待つこと30分。18時半になっても会場には入れない。ポツポツ雨も降ったり止んだり。熱帯地域のため天気がうつろいやすく、たまに雨が降ったりスコールになったりする(クアラルンプールは15年前の乾季に来たことがあり、今回は2度目)。雨季で心配でしたが3日間滞在中スコールに遭遇することはありませんでした。
18時半過ぎになってようやく会場が開いて、スタッフが入念にバッグの中を調べだす。少なくない人がカバンにiPadが入っていたり、持ち込んでは行けないものを入れたりしていて、あっちいってあずけてこいや、と言われておりました。僕は注意事項を読んでいたので大丈夫だろうと軽いトートバッグをもって通過しようとしました。若い女性のスタッフに中を触られ、「ムム、これはなんだ?」と訝しがられ、あけろといわれる。双眼鏡だったので、ムフフ、OKね!と笑顔を返されました。中に入るとアリーナ席に降りる階段のところにも写真スポットがありました。
飲み物や食べ物を売っている売店がちらほらあるが、酒はやはりなかった。マレーシアでは宗教の事情で、レストランに入ってもお酒を提供しておらず飲めないところが結構多いのです。サブウェイのサンドとスプライトを買ってトイレに行き、会場入り。アリーナ席はAからTまで、僕の席はTで20列目でしたが、かなり近くで見える。福岡や福井の席より近いし、双眼鏡は必要ない。席は中央が前に突き出しているステージになっていて、その両サイドにも座れる席がありますが、いずれにしても前から20列目で見ることはなかったので、興奮してくる。スタンド席が3階まであってかなり高い位置から見下ろせる構造の会場でした。20時(ほぼ)ぴったりにライブは始まりました。
*以下、セトリなどネタバレあり
ライブ開始(レポ)
①『優しさ』
まずステージ背後で藤井風が口紅を手で唇に塗りたくる映像が流れ、メンバーが舞台に登場。フードのある服を着た風にスポットライトがあたりしばし沈黙。何が起こるのか観客、息を殺して見守っている。《今何を見ていた あなたの夢を見た 優しさに殺られた あの人の木陰で》バックでかすかにキーボードが鳴っているが、ほとんどアカペラのように響く。うますぎて震える。風がピアノのところに移動すると、その手元を俯瞰でとらえた映像が映し出される。モノクロの映像がかっこいい。しっとりとした楽曲で場が包まれる。風はフードのついた黄色の服を着たままで顔は見えない。
②『何なんw』
もうこの曲やるのかという驚き。さらにイントロで風がフードをとってファン大熱狂。ところでシンガポールもそうだったらしいが、みんな座って鑑賞。スマホを片手に写真や映像を撮りながら観るというのが一般的なようで、ここクアラルンプールでも最初は座っておりました。この曲とかめちゃくちゃ立ちたいのだが、座って身体を揺らしている感じ。みんなこの曲大好きなので座っていても、めちゃくちゃ盛り上がる。そしてピアノソロのパートからそのまま次の曲に突入。この繋ぎ、めちゃくちゃかっこよかった。
③『もうええわ』
TAIKINGのギターソロがとてもかっこよい。間奏でもアドリブっぽい演奏を披露、セッション系のライブのほうがやはり楽しい。風も陽気に踊りだす。再び曲はきれずに、そのまま次の曲へ突入。ここで風がMC。よかったら立ってと伝える。ファン、当然よろこんで立ち上がる。
④『キリがないから』
かなりハネたリズムにアレンジされていてかなり違う。でもライブにはこのヴァージョンもノリがでていい。
⑤『へでもねーよ』
この曲もハネたリズム、激しいところはかなり激しいアレンジで原曲のロックテイストとはまったく違うので楽しめた。歌唱も熱が入っていた。
⑥『grace』
風がステージからいなくなり、メンバーたちのしっとりナンバーで風の映像が続く。冒頭で口元に塗りたくった口紅を拭くというパフォーマンス。風、衣装を変えて登場、一旦座った観客が再び立ち上がる。衣装はデザインがランダムでカラフルな派手な服、めちゃくちゃかわいい。この曲やっぱいいなぁとしみじみ噛み締める。間奏であのダンスをかつてないほど激しく踊る風。そのまま次の曲。ここも繋ぎがかっこいい。
⑦『青春病』
スマホを取り出して会場を撮り始め、観客沸く。この曲は不思議で聴けば聴くほど味わいがでるいい曲。私事だが、今月刊行される新著『遊びと利他』(集英社新書)で大阪の森のようちえんに調査に行き、真冬に4日間凍えながら森の自然のなかで生活したのだが、毎日この曲を聴いて頑張るぞと思いながら車で現地に向かっていた。だから『青春病』を聴くといつもあの日々を思い出す。曲が終わるとMCが始まる。「愛してるー!」「I LOVE YOU!」という掛け声が、とくに男たちから飛び交う。
⑧『Feelin' Go(o)d』
ライブで聴くのは初めて。アレンジが少し違う。サビでTAIKINGがいれるカッティングがかっこよくグルービィなサウンドになっている。照明もピンクや黄色、水色などカラフルなステージになって素敵、ここでダンサー4名が登場。カラフルな虹色の映像と衣装、ダンサーの表現がマッチしていてよかった。
⑨『花』
イントロが始まったら大歓声。この曲やっぱり人気あるんだな。僕も大好き、ベスト5に入る。カラフルなステージがぴったりの楽曲で幸せな気分になる。曲間で「Where is your flower?」と問いかける。終わったら手で花を作って笑顔を見せ、「I see flowers everywhere」と何度かいう。そして「You look like garden」と突然いって次の曲が始まる。
⑩ 『ガーデン』
当然『ガーデン』がくる。Uh~のところ、みんなで歌う。ステージを左右に歩きながら歌い上げる。この曲も『青春病』と同じくスルメ曲で聴けば聴くほど味わい深く思える名曲。フェイクのパートも声が伸びていた。笑顔できめて終わり。SEで鳥の鳴き声のような音が流れ、4人のダンサーが踊る時間に入る。一同着席。だが、かっこよくてかなり客席から歓声があがる。続いて背後に家が映し出され、サックスを吹きながら登場する風。
⑪『Workin' Hard』
後ろには風が働く映像が流れ、先ほどの曲間に座り、そのままの状態で見ている観客。『ガーデン』は別に座ってもいいけど、この曲は立つべきなのではないか、と思ったが座ったまま鑑賞。スーツに帽子をかぶったクールな衣装。サウンドがかっこいいのよね、この曲は。最後に帽子を投げるパフォーマンスもきまっていた。
⑫『燃えよ』
いきなりフェイクから曲開始。アレンジが違いすぎて最初『燃えよ』だと気づかなかった。途中からだんだん盛り上がり、次第に観客も次々に客が立ち上がっていく。終盤ショルダーキーボードを弾き、ファンたちさらに盛り上がる。曲間でダンサーたちと激しいダンスを披露。風、キレがどんどんよくなっている気がする。そして風のステージにマイケル・ジャクソンの影を見ることが多くなっている気がする。
⑬『きらり』
この曲大好き。ベスト5に入る(ちゃんと順番考えたことないけど)。出だしのAメロ、音がとりにくそうに歌っていたが、途中から盛り返し、音もぴったり。間奏のダンスもキレッキレ。またマイケルを想起してしまう。楽しそうに歌う風を見てるだけで幸せになるよね。「あーあああー」何回やるんかってくらい繰り返し、ストップしたところで突如歌い出す。最高潮の盛り上がり。
⑭『damn』
正直、こういうロックテイストの曲はあんま好きじゃないけど、好きな人が多いのだろうと思う。上着をパッと脱いで真っ白なシャツになり、いっそうセクシーさを放出させる風。4人のダンサーとのパフォーマンスがめちゃめちゃかっこよかった。
⑮『旅路』
これもアレンジがかなり違う、というよりテンポが速いので違う曲に感じられる。間奏でメンバー紹介をして2番に入る。『旅路』もめちゃくちゃ好きだけど、『帰ろう』も聴きたかったなあ。MVが最高よね。『旅路』が終わると、ファンが声援をあげる。
ファンの男「好きだよー!」(客席から笑い)
風「I love you more!」(客席から大歓声)
(この後、マレーシア語?で何かいっていた)
⑯『満ちてゆく』
暗転し、夜空に輝く星の映像。この曲もライブで初めて聴く。ピアノの弾き語りで開始すると観客がスマホのライトを照らして揺らし始める。周囲を見渡すと何千という光が揺れている。音楽の力、風の声とあいまって壮観で鳥肌が立った。時空を超えて別の世界へ連れて行かれたような雰囲気に包まれて終わる。そしてピアノ独奏(みんなうっとり)。
⑰『死ぬのがいいわ』
イントロが始まると大歓声が起こる。この曲、やっぱり海外で特に人気が高いだけある。最後はいつものごとくステージ上で倒れる。
⑱『まつり』
軽快な音楽が流れると、次第に『まつり』のイントロに。帽子、扇子を使ったパフォーマンスで盛り上がりが最高潮に達する。この曲のかっこよさはいつかちゃんと言語化したいと思っているが、いまのところ風の楽曲でベスト1かもしれない。ちなみに椎名林檎&東京事変のベスト1は『修羅場 - adult ver.-』で、その批評は拙著『椎名林檎論——乱調の音楽』(文藝春秋)に書いている。それと同じ意味において(つまり批評的な視点において)『まつり』は藤井風の最高傑作だといっていいと思う。それに関しては、そのうちきちんと言語化する。
終演は21時半であっさり終わり。風らしいね。現地の人とかは、え、アンコールないの……?って雰囲気だったが、僕はそういう風が好き。風らしい。
藤井風論に向けて
さて、そもそもなぜ僕が今回ライブレポのようなものを書いたかというと、クアラルンプールのライブに参加しますとツイッターでいったら何人かの風民たちがレポ書いてとリプをくれたので、来られなかった人たちのために書こうと思い立ったというのが大きいのですが、もう一つ理由があります。以前、ツイッターで以下のようなつぶやきをし、アンケートをとりました。
実は、いくつかの媒体で椎名林檎論の次は何を書くか尋ねられて、宇多田ヒカルかな、藤井風もいつか書きたいけど、などと答えていました。というのも、まだ2枚のオリジナルアルバムが出たばかりの時だったので、さすがにリアリティがなく、最低3枚はアルバムがないと本としては書けないと思っていたからなのです。ところが、前にすでに藤井風論の執筆依頼をいただいていて、3枚目が出たら書きたい、来年にはスタートできると思います、とお答えしていました。先日のNHKの番組で、英語のアルバムを来年の誕生日までには出すということらしいので(6月14日)、一気にリアリティがましてきて、本格的に準備しないとと思っていたところだったのです。
それに加えて、もちろん、なぜ藤井風がこの時代にこれだけ求められているのかをちゃんと言語化しないといけないというのもアンケートから感じました。アーティストを論じるにはタイミングというものがある。藤井風論を書くべきタイミング、僕としては3枚目が出た後だと思っています。いまはその準備段階ということで、海外のライブのことも記録しておこうと思ったのでした。