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なぜあなたのチームは力を出しきれないのか - パトリック・レンシオーニ

戦略やテクノロジー、マーケティングによって競争優位をもたらそうとする経営者が多い。この方針は知的所有権や資本力が基盤になっている。
情報が自由に流れる企業社会でこの基盤による優位性を保つことが難しくなってきている。
筆者は組織の権限性を、どんな会社でも得られるが無視されている競争優位として主張し、その獲得手段を提案している。
健全な組織は内紛や混乱を少なく、士気と生産性が高く、離職率と人的コストが低い。
組織づくりの最初のステップは、健全な組織作りが難しいという現実を受け入れることである。その実現には並々ならぬ決意と勇気、粘り強さが必要になる。
実現手段は単純で、一言で言えば下記の通りである。

結束せよ
明確にせよ
周知徹底せよ
強化せよ

パトリックレンシオーニ著, 仁平和夫訳; なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 日経BP . p.137

第一条 まとまりがある指導者チームを作り、その結束を維持する

まとまりがあるチームでは、答えにくい質問をあびせ、人の考えに異を唱え、最終的には会社にとって何が最善であるかを考えて決定を下し、その決定を全員が支持する。
民主的に全会一致した意見を採用するというわけではなく、徹底して議論し、伝えるべき疑問や不安は伝え、責任者が決定を下す。まとまりのあるチームは争う。争いが終わると感情のしこりを残さずにさっさと次の議題に移る。結束するためには、信頼関係を築くことが重要である。

信頼関係を築くための方法論

  • MBTTや個人史で互いの理解を深める

  • 苦しい時期を共に乗り越える

  • 会議を減らしたい誘惑に負けず、顔を合わせて話す機会を持つ

まとまりがあるチームの判定方法

  • 会議が待ち遠しいか、会議で重要な話題が議論されているか?

  • 本音で話し合っているか?遠慮なく反対意見を挙げているか?

  • 失言をしたときに謝ることができているか?

  • お互いの長所や欠点を理解しているか?

  • 陰口を謹んでいるか?

第二条 透明な組織を作り出す

透明な組織では、組織の根本にある理念にすべての従業員の合意がされ、共通の言葉と判断基準を持つことにより権限委譲が進んでいる。
焦点が定まり、無駄に費やす時間と労力が少ない。
陥りがちな罠としては、柔軟性を重視し、あとでいつでも計画を変更できるように出す指示に幅を待たせてしまう。筆者が一緒に仕事をした透明な組織では、間違うことを恐れてない。

透明な組織を作る方法

組織にまつわる基本的な質問に答え、明らかにする

  • 組織の存在理由は?社会にどう役立っているか?

  • 行動の規範になる、ゆずれない価値観は?

  • どんな事業を行い、どの組織と競争しているか?

  • 今月、四半期、来年、5年後の目標は?

  • それぞれの目標を達成するためにすべきことは?

基本的価値観を言語化する方法

基本的価値観の言語化の方法として、筆者は「これがうちの会社のいいところだというものを見事に体現している人」を2,3人あげてもらい、共通点を見出す方法を提案している。
逆に「その仕事ぶりに問題があって辞めてもらった人、辞めてもらいたい人」を聞くことで一層よく見えてくる。

第三条 組織は決定したことの伝達はやる過ぎるくらいやる

健全な組織では、情報伝達のしつこさがジョークの種になる。上の人間は腹の底で何を考えているか、受け取った情報の裏に何が隠されているかなど、余計なことに頭を使う必要がない

具体的な手段
- 反復
問題解決に情熱を燃やす頭の良い人たちは、繰り返しを嫌う。専門家によれば同じことを6回見聞きして初めて納得するという。

- 単純明快
重要なメッセージを不要に複雑にしない。自分の知能が高いことを見せつける誘惑に勝つ。

- 多様な伝達手段
電子メッセージ、口頭、人づてに伝えるなどの方法があるが、受け手によって好ましいかどうかで見逃す可能性もあるので、全ての方法を使い、あらゆる努力を惜しまない。

- 会議のあとに、「みんなに何を伝えるべきか」「もっとはっきりさせることはなにか」「どのように伝えるか」について話す時間を取る

第四条 人事システムで透明な組織を強化する

採用基準、勤務評価、昇給・昇進、解雇の基準や理由を明確にする。

判断基準 (抜粋)
- 面接・面接後の選考会についてプロセスが決められているか
- 面接の際に、部署や職種を問わず行動について質問すべき項目が決められているか
- 組織の価値観に反する行動を取った社員を解雇しているか

出典

パトリックレンシオーニ著, 仁平和夫訳; なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 日経BP .

感想

筆者が引用しているように、ビジョナリー・カンパニーでの分析における示唆と一致するところが多い。
基本的価値観について詳細を知りたい場合は、ビジョナリー・カンパニーを読むのが良いだろう。

第一条の結束に関しては信頼関係を築くことが重要であると言われており、昨今流行りの心理的安全性を高めるアプローチが使えそうである。

第二条では、間違えることを恐れずに迅速に情報を伝達することが透明な組織になる鍵であると言っているが、人は間違いを恐れ、これには機能的な意味の説明もできる。間違えてばかりの人は信頼されないし評価もされず、最後には無視され排除されるだろう。
おそらく、結束することで責任が分散され、間違いに対しての個人が負うリスクが低いと感じられる文化が必要になるのだと思う。
「私個人ではなく、チームが間違えたのだ。なぜならチームで十分に議論して決定を下したのだから」という感覚が恐れを軽減させるのだと理解し、だからこそ先立つ一条が提唱されているのだと考える。
この前提に立つ世界では、個人のオーナーシップと個人に対する評価の帰属は軽視されているようにも感じる。

第二条で言及される目標設定については、テーマ目標と主要戦略目標、メトリクスについて提案しているが、これはOKRに類似しており、一般に受け入れられるものだと思う。これを徹底的に伝え、人事システムに反映するという第三条、第四条も特に疑問なく受け入れられる内容に思うが、同時に並々ならぬ粘り強さが求められるということも痛烈に感じられる。