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臨界サイズ受容期を探る - 4

 今年 - 2024年はわたしのオオクワガタ・ブリードでは実りが多い年となりそうです。

幼虫にPlan-Aを遂行させ切る

 このテーマのミッションは一つ、言い換えれば、——オオクワガタを大型化させる秘訣——を探ることです。それは、見做し成虫サイズが幼虫の成長期の或る段階で決定されるのであり、それは、見た目の外見に反映されるようになる(幼虫が大きく成長する)前段階に既に決しているという仮説を立てました。これは、単純に言えば、幼虫に最大成虫サイズに成るべく食餌させ続けさせればよいのですが、そのメカニズムが未解明なので、考察をしているわけです。要するに、常にPlan-Aを実行させ続けさせることができればよいわけです。そのためには:

  • 餌環境を劣化させない

  • 受容体の判定時期を延ばす

……ということが最重要だということは間違いがありません。でなければ、幼虫はPlan-B、-Cへとその後の発育プランをシフト・チェンジさせてしまうのです。それは、ミニマム・サイズ化へのスイッチングです。つまり、これは生物としては合理的な選択で、餌環境の栄養状態に合わせて成虫の体躯サイズを事前に調整することで成虫化への確実性を増して、飢餓死滅リスクを減らすということです。

飢餓感が受容体へのスイッチか

 これまでのわたしの考察では、ポイントがずれていたのかもしれないと気づきました。大型化という題目に注目するあまり、幼虫に与えるべき栄養素であったり、その状態であったりというポジティブ要素ばかりを考慮していたんですよね。幼虫はどういう状態の餌材を富栄養として感受しているのか? ——そのような観点ですね。まあ、それはそれで確かに意味があるのですが、これとは逆方向の考え方が正解なのではないかと気付いたんです。
 それはつまり、貧栄養状態です。幼虫は富栄養を判定基準にしているのではなく、それとは真逆の貧栄養状態をその判定基準にしているのではないか、ということです。要するに、餌材である生育環境中に食べられる餌が有る限り、幼虫にとっては何ら問題ないわけです。どんどん培地を食べ進むことができる。ところが、幼虫にとって食べられない培地しかその環境に存在しなくなった場合(低C/N比など)、これはあまりにも単純で判り易いことなのですよ、実は。何故なら、食べるものが其処に無いわけですから。しかし、そうは言ってもそれで直ぐに死ぬということはありません。体内に一定量蓄えられている分で耐え凌ぐことは可能だからです。がしかし、将来的にどうかと言えば、それは大変危ういわけです。そうすると、選択肢として、今後も幼虫のまま過ごしてエネルギーを無駄に消費してしまうよりも、サイズを極小にしても成虫に成れる道を選択するわけです。つまり、Plan-Bへのシフト・チェンジです。これこそが、臨界サイズ決定というメカニズムが必要とされている理由です。幼虫が食餌不能に陥って飢餓状態を経験すると、受容体が反応して臨界サイズを小さめに決定する判定になるということです。
 つまり、幼虫の受容体の判定基準には餌の質の良し悪しは無関係なのではないか、というのが新たなわたしの仮説です。少々、栄養が偏っていようが、何だろうが、生存環境上に十分な餌が確保されているということ、これこそが幼虫が大きくなることのできる将来的な可能性を担保しているのであって、例え高タンパクで糖質も十分な餌材であっても、それが物量的に乏しければ、或いは、それが食べられない質へと時系列的に落ちるのであれば、それが食餌不可能となった時点で幼虫は直ちに飢餓感を感じてしまう。そう、この飢餓感こそが受容体へのスイッチになっているのではないでしょうか。その時点で、もうPlan-Aは幻になってしまうわけです。これ、おそらく、正解だと思われます。

黄色化に連動している

 そして、この飢餓反応スイッチは幼虫の体内の代謝機能を制御していて、それと連動してクチクラ層の成長を停止してしまうのだと考えられます。その結果の表れが体色の黄色化ではないでしょうか。そう、やはり、臨界サイズ決定と黄色化は連動しているとわたしは見ます。それは朧げに、また、徐々にではありますが、観察によって見えてきているんですよね。
 2024 Lineageの2令幼虫を当初は2群に分けて菌糸瓶管理していたのですが、片方のグループ用にしていた1年もの熟成菌糸瓶が劣化したので、急遽、もう1グループと同じオリジナル・アスペン菌糸瓶に入れ替えたということがありました。その内の劣化菌糸瓶で既に3令化していた1頭が未だ3令初期段階だというのに黄色化していたのです。これには少し驚いたのですが、この個体のその後の経過を注視観察していました。そうしますと、食餌量が一向に増えないのですよね。食痕は出ていて、時々幼虫の姿も見えるのですが、幼虫自体の健康状態は回復していて健常に見えます。がしかし、他の同じ成長段階の他の個体らと比較して圧倒的に少食なのです。この個体の状態から窺えるのは、臨界サイズ受容期は、わたしが当初から想定していた3令中期から後期頃という括りよりも更に早く、3令加齢後にはリミッターが作動するようだということです。そして、その表れとして黄色化が確認できる。つまり、明らかに連動していると見て取れるのです。

リミッターの作動を遅らせる

 臨界サイズ決定機能は事実上の最大サイズに対するリミッターと言えるかと思います。これは生命維持に関わっている遺伝子上に書き込まれたメカニズムなので、これを完全解除させることはできません。がしかし、可能な限りその作動時期を遅らせることは可能だということです。それは、おそらく、幼虫に飢餓感を感じさせないことに尽きます。勿論、更なる大型化への可能性については、併せてそれと同時により良い餌材を与え続けることも重要です。この餌材の質的問題については、——マガジン「KYOGOKUオリジナル菌糸瓶開発の道」——で考察しておりますので別途お目通しくだされ。
 しかしながら、直接的な生体的挙動は、リミッター発動時点(臨界サイズ決定時)で既に始動してしまっているのであって、それは不可逆的であり、その後の食餌による体重増加があったとしても、羽化成虫サイズの増長は期待できないということです。ですので、それまでの発育段階の飼育管理が大変重要であるということです。
 現段階で大型化に有意と考えられる飼育テクニックは:

  • 幼虫に飢餓感を絶対に感じさせないこと

  • 高C/N比餌環境を維持すること

  • 幼虫の体色が青白く透明感がある間に良質な餌を与え続けること

……です。

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