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良質な餌とは?

餌環境バランス

  • タンパク質を添加しても大きくは育たない

  • 食痕(糞)を再利用する有意性はない

 この二つの理由は、共に培地の低C/N比化を招く原因にしかならないからだとわたしは解説してまいりました。では、何故に低C/N比化すると幼虫は拒食症状を示すのかと言うと、これは富栄養化による環境負荷が高まるからだと考えられます。オオクワガタ幼虫には生命維持と発育のために栄養は不可欠ですが、その良好なバランスを超えてしまうと餌の分解吸収機能が働かなくなるのです。これは、我々、人でも同様のことが言えるかと思います。暴飲暴食は健全か? 肥満は健康かということです。というよりも、その早期の段階でさまざまな機能障害を引き起こします。糖尿病は正に富栄養による現代病ですよね。
 餌材の菌糸瓶等の培地内に窒素が過多に蓄積されだすと、それを餌に空気中のバクテリアなどの害菌が繁殖し、培地の分解を始め出します。これが腐朽から腐敗への移行の初期段階ですが、これは温度、湿度による飼育環境によって比較的早期に始まる場合が多いです。それを示すのが食痕の褐色化であるというのがわたしの主張であります。

タンパク源

 そもそも自然下では天然の枯死木材を資源としてオオクワガタは育つわけですが、木材にはタンパク質など殆ど存在しないのです。では、どこから、という答えが腐朽菌による分解生成であり、今に続くキノコ栽培用菌床の応用飼育の利用でした。がしかし、それでも必要なタンパク質量としては少なすぎるとされ、他のルートとして培地中の共生菌、空中窒素固定菌などから幼虫は摂り込んでいるということで、食痕(糞)の再利用(食糞)を主張されている専門家やブリーダーが多いわけですが、わたしは採集時と飼育による観察からオオクワガタ幼虫は食糞はほぼしていないと考えています。
 では、どこから? となり、共生酵母菌説に至りました。これまでの実験で得られた結果から培地の低C/N比化環境を幼虫が嫌う(最悪、死ぬ)と言う事実を鑑み、窒素源に由来しないタンパク源創出元を考えると、これしかないのです。

健全な食痕の色は木肌色

高炭素依存度

 炭素は分解されると単糖になり、幼虫はこれをエネルギー源として吸収できます。セルロース、ヘミセルロース、リグニンによる高分子体である培地のオガ(木質)から単糖を得るためには、まず、リグニンを分解して結合組織の他の二者から切り離さなくてはいけません。このリグニンを分解できる生物が白色腐朽菌(キノコ)なわけで、幼虫が唯の生のオガ培地を食べても育たないのはそういう理由です。そして、腐朽菌はセルロース分解酵素も持っており、幼虫は単糖も得られ、また、菌糸の体細胞にはその他のビタミンやミネラルも含まれるので同時に菌糸を食べることで幼虫からすれば一石二鳥の栄養摂取なわけです。がしかし、それでもまだ尚、タンパク質が圧倒的に欠如しているとされます。
 幼虫にとってタンパク質はアミノ酸まで分解されていないと吸収できないので、餌環境中の他の分解者の手を借りるしか摂取する道はないことになります。それが、共生酵母菌というわけです。幼虫は親♀から垂直移譲された共生酵母菌を体内のマイセトームという器官に保菌貯蔵することでこれを実現しており、酵母菌はキシロース、セロビオース、キシラン分解酵素を持っているので、糖からアミノ酸を生成できるのです。
 つまり、幼虫が大きく育つために必要な要素は窒素ではなく、本質的に木材——炭素——に大きく依存しているのであって、「大きくなるためのタンパク質が欠けている」という短絡的な考え方による窒素源栄養素の添加は逆に有害だということです。
 従って、幼虫生育期間中は常に良質な炭素源を欠かさず供給し続けることが大切なのです。

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