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2023 Linage個体のその後と臨界サイズ決定期についての新たな考察

2年化飼育個体の謎

 2023 KYOGOKU Linageですが、♀は昨年中に蛹化しましたが、生き残った♂の1頭は蛹化も、前蛹にすら成りそうな気配が感じられず、結局、年を越しました。どうやら2年化濃厚で、というか、現実的に決定で、それでこの♂1頭、昨年の気温が低めの夜に新しい菌糸瓶に移動させました(変温ショックを与えないため)。少し黄色化はしてはいるのですが、やはり未だ前蛹になりそうな状態ではありませんでした。画像はうっかり撮影し忘れましたが、この個体については将来有望にすら思えてきました。
 そしてまた、2024 Linageでも2年化になりそうな個体が1頭居ます(トップ画像)。これも♂で、3令に加齢せず、2令のまま年を越しました。サイズは2令初期サイズのままです。今年の夏に3令化すれば成長遅れの1年化ということにはなるのですが、しかし、これは過去に2年化した個体での観察経験上、成長時間的に先ず1年化羽化は不可能かと思います。
 この2年化個体の傾向に共通しているのが、通常の成長に充分な富栄養菌糸瓶に入れ換えても、他の個体のように食欲が旺盛に好転するではなく、その後も一向に大きくならないんですよね。活動的な夏期には他の個体と同等量の培地を食べはするのですが、やはりサイズは大きくはなりませんでした。

飼育2年化個体サンプル
KYOGOKU 21101 ♂ - 37mm
2021年度ブリード2年化(2023年夏羽化)

飼育2年化には2パターンある

 飼育個体の2年化には、上のコラムの前段と後段の2パターンがあり、それぞれで傾向が違います。
Pattern A:
 前段の例は、ブリーダー間でいわゆる「セミ化」と言われるものに似た事例で、通常に3令化したものの、蛹化時期に蛹化し損ねてそのまま幼虫で過ごし2年化したという例ですね。この我が家での個体の場合、飼育管理的に考えると、これは「セミ化」ではなく、今年の夏には通常羽化する2年化個体だと今のところ認識しているのですが、もし、そうだとすると、自然界での通常成長期間である2年化に即した成長パターンなのではないかと考えています。であるのならば、興味が湧くのは、冬眠明けでの蛹化に向けた春の最後の食いがあるのかどうか。つまり、未だ成長ゲインは期待できるのかどうか、です。
Pattern B:
 後段の例は、3令化を待たずして2令時に既に成長が悪いことが顕著なまま加齢も遅れ、3令加齢後にも大きくなれずに辛うじて羽化するという事例。我が家ではこれは2事例めなので今回ではっきりと認識できたことなのですが、これらの個体には共通したことがありまして、2令加齢直後時くらいにですね、一時的に他の個体よりも極端に餌環境が悪かったということがあったんですね。菌糸瓶の劣化です。それによって、おそらく絶食・飢餓状態に陥っていたということです。そして、それ以降に餌環境を改善しても食事量が一向に増えなくなるんですよね。観察しておりますと、個体自体はまったく不健康ではないのですが、まるでダイエットしているみたいに自ら食餌をセーブして大きくなろうとしていないようにさえ見えるんです。そうして加齢しないまま越冬(冬眠)し、翌年の晩夏から早秋に3令化、翌々年の夏に蛹化・羽化というパターン。

臨界サイズは2令時で決定される?

 ……のではないか。
 これまでの観察によって、わたしはオオクワガタの臨界サイズ決定時期を3令加齢初期頃ではないかと考察していました。がしかし、前述の飼育2年化個体のPattern Bの事例から判断できるのは、それはもっと早く、2令加齢初期時であると特定できたも同然なのではないかということになります。「3令に加齢するまでならばどんな飼育方法でも大型化には問題ない」としたこれまでのわたしの言説は今後訂正する必要があると同時に認識も改めなければならないようです。これを逆説的に捉えると、もしも、極小サイズのレコード個体作出を狙うには、幼虫が2令に加齢した直後に極度な貧栄養餌環境で一時的に飼育するということです。そうしますと、幼虫はその期間の貧栄養環境を受容体で察知することで自らの成長サイズ(臨界サイズ)を小さく設定し、以降、例え餌環境が好転して富栄養環境になろうともまったく大きくなろうとしないということなのです。これが臨界サイズ決定による小型化メカニズムです。
 では、これを反転させて考えれば、大型化させるには2令化直後の餌環境が大変大事であるということであり、この時期に餌環境ストレス(飢餓感)を与えてはいけないということが言えるかと思います。であれば、この時期に幼虫を富栄養環境にさえ置けば大型化は間違いないのかという発想に安易に陥りがちですが、これがそう単純なメカニズムではないとわたしは考えています。
 ただ、間違いないであろうポイントは、受容体が2令加齢時から発達するということなのではないかと考えます。そして、その感受性はそれ以降ずっとオープン状態なのではないかと考えられるのです。でなければ、比較的幼虫の生育期間が長いオオクワガタの場合、時期によって刻々と変化する餌環境に順応できないということになります。大きくなる方が生存本能的に優位なのは間違いないので、富栄養環境にも関わらずそれを自ら阻害するということは考え難いからです。つまり、それは、極端な貧栄養ストレスを感じた場合にのみにその飢餓ショックがトリガーとなって発動されるのではないかということです。そして、その時点でサイズは限定化されてしまいます。それが一度発動されてしまうと、以降は固定されてしまうということです。つまり、——臨界サイズが決定されてしまう——ということです。

♀の場合

 それと、やはり、♀の成虫サイズの決定時期(臨界サイズ決定期)は♂よりも早期であると考えられますね。これも、正確に言いますと、受容体の発達時期(Opening)は♂と同じ時期と思われますが決定期(Closing)が♂よりも早期ではないかと考えられます。複数頭でそう認められる同じ結果が得られました。これは、早熟発達傾向である♀の特徴であり、相対的に♂よりも成長スケジュールが短縮化されるためだと推測できるかと思います。

♂の場合

 問題は♂の臨界サイズ決定期(Closing)についてですが、これについても今回、2年化した個体の次回のボトル交換時の経過が新たな考察の材料になるかと思います。餌材の状態、温度との関係もあるので中々判定は難しいのではあるのですが、つまり、あと半年の間に更に成長ゲインはするのかどうかということです。

Closingを延ばす

 臨界サイズについては、幼虫の体内で決定されていることなので、観察からは窺い知れる情報はほぼ無いです。ただ一つだけ知れるのは、幼虫が大きく成長し続けているかどうかだけです。
 それだけに解説するのも難しいのですが、臨界サイズが既に決定されているからといって成長がそこで停止するのではなく、以降も成長し続けることはあり得ると思われるんですよね。これはどういうことかと言いますと、要は、成虫になったときの最大サイズが幼虫の体内で決定されたのであって、その時点での幼虫のサイズが即ちそれではないということです。従って、決定された成虫サイズに必要な分の栄養がもし足りないのであれば幼虫が引き続き摂取し続けることはあろうかと思いますし、また、その逆もあり得るということです。これは、3令幼虫の体重がそのまま羽化成虫サイズに反映されるのではないことの裏付けになるかと思います。
 肝心なのは、臨界サイズ決定のClosing期をできるだけ延ばし続けるということではないかとわたしは考えています。これは、これまでのわたしの追求している飼育の考え方を否定しておらず、それは、幼虫の貧栄養ストレス、ショックを与えないように富栄養環境で飼育し続けるということです。
 がしかし、これもまた考え方が複雑なのですが、幼虫にとっての「富栄養」は、我々、人間が考える富栄養とは意味合いが違うのであろうということです。それは、高タンパク、高窒素環境では無いということです。これは、種によって求めている環境が異なるわけですが、事、オオクワガタに関してはそういうことではないということです。オオクワガタには高炭素率環境を維持することが肝要であり、そこには白色腐朽菌、共生酵母菌の存在と活性が必須なのです。高窒素環境では幼虫は拒食に至り、臨界サイズ決定のClosingを招いてしまいます。

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