見出し画像

アラタ体萎縮

 外見的に幼虫の成長段階を判断できる特徴を見極められないものかと、最近、観察を続けているのですが、その一つが以前に紹介した「黄色化」。もう一つ、これまで紹介していなかった、それと前後する時期に見られる特徴がありまして、それが「アラタ体萎縮」です。

幼若ホルモンとは

 アラタ体というのは、幼虫の脳の後方にある組織で、ここで幼若ホルモンが分泌されています。幼若ホルモンが分泌され続けていることで幼虫は幼虫としての体質を維持しているわけですが、アラタ体とはまた別の前胸線からエクジステロン(脱皮ホルモン)分泌されることで脱皮が起こります。そして、幼若ホルモン非分泌状態でこのエクジステロンが分泌されると蛹化が起こります。つまり、幼若ホルモンが分泌され続けている限り幼虫は幼虫として成長し続けるわけです。

幼若ホルモン分泌が少なくなったサイン

 おそらく、3令中期から後期の段階でこの幼若ホルモンの分泌が衰退し始めるのだとわたしは考えています。その時期が黄色化とほぼ重なるのです。どちらが前後するのか、同時期なのか、そのあたりは未だ見極めできていませんが、とにかく、ほぼそれは間違いないと考えています。
 では、それは何故判るのかと言いますと、幼虫をよく観察している人ならばお気づきの方も居られるやしれません。3令後期にも成りますと幼虫のヘッドカプセル
の後方3節部分が極端に萎んでいるのを確認できるのですよね。これは雌雄共通しています。幼虫の蛇腹全体の膨らみ様から見て、この3節部分だけが異常に萎縮しているのです。それ以前の幼虫の体躯(つまり、蛇腹全体)は平均的に膨らんでいたのにです。そして、この収縮は前蛹になるにつれて更に極端に萎縮して蛹化が始まります。
 アラタ体の場所は脳の後方部分にあるのですよね。そう、ヘッドカプセルの後方3節部分が其処です。幼若ホルモンが体内で溜まっている場所が此処。上のコラムを読み返していただければ、ご納得かと思います。要するに、このヘッドカプセルの後方3節部分の萎縮の兆候が表れだしたらば、これはもう成長はしないと見極められるわけです。謂わば、終齢期突入ですね。これに気付いた時には事実上、大型化に寄与する成長はもう終わってしまっているわけです。
 幼若ホルモンに関しては他にも研究結果論文がありまして、♂に関してなのですが、低温下で発育した個体ほど幼若ホルモン分泌量が多いという報告、また、幼若ホルモン分泌量が多い♂ほど大顎の成長が良いという報告です。ということは、低温飼育すれば顎の発達が良くなるということなのですが、どうも、そこはそう単純にはいかないようです。前者については、温度が低いほど生体活性が下がるので、相対的に発育にその分の時間が伸びるということだと考えられます。後者は、わたしがマガジン——臨界サイズ受容期を探る——で考察していることに共通した、最大サイズ値を伸ばせた幼虫ほど発育期が伸びるということの裏付けになろうかと思います。

アラタ体肥大個体が期待大

 これは、その時期的な見極めには繋がらないのですが、過去、当家で比較的大きく羽化した個体の幼虫期を思い返すと、共通項を挙げるとすれば、3令になってからのヘッドカプセルの後方部分が太かったと思うのです。そう、♂個体に関する限り、やはり幼若ホルモンの分泌量の大・小は顎と体躯サイズに大きく影響すると考えて正解だと思います。それよりも後方の体躯、つまり蛇腹部分が肥えていたりしてもそれは一時的なものであったりと、あまり正確な指標にはならないのですよね。それは体重も同様です。特に当家の個体群はワイルドか、その一、二世代目らですので、太らず、体重の乗りは良くありません。がしかし、早い話が、還元率は高いのです。また、交雑種ではない純国産ですので、頭幅も♂で11 - 12mmと、純国産の極平均的サイズです。
 わたしの個人の仮説に過ぎませんが、体重よりも、太さよりも、アラタ体萎縮期以前の段階でアラタ体が肥大していれば、期待できる個体だと言えるのではないかと思います。それプラス、体長ですかね。

Preアラタ体萎縮期

 というわけで、この「アラタ体萎縮」については、よくよく観察していますと明確に見極められるかと思います。がしかし、それは既に「手遅れサイン」でもあるわけです。願わくはこの前段階、いや、前々段階を見極められる何らかの見極めサインはないものか? というのが今のわたしの観察・考察ポイントなのであります。

いいなと思ったら応援しよう!