ワイルド・オオクワガタ共生酵母菌 —— その後
わたしの記事を切っ掛けにしてオオクワガタの共生酵母に関して興味を持たれた方が居られたのは、少なからず好影響かなと自負しているところですが、この共生酵母菌とその培養液(酵素液)の最も利用価値の高いステージであるところの産卵セット管理と孵化初令幼虫の初期管理も終了したので、一先ず、今は酵母と培養液を積極的に利用するシーンは無い状態です。
継代培養
そして、酵母菌も生き物なのでいつまでも生存し続けているわけではありません。ですので、この貴重な種菌株を継代培養させていかないといけない。しかし、培養液の状態では長期管理は難しくなります。それは「生もの」だからです。それと、アルコール発酵させると、濃度が濃くなった場合には自らが生成したアルコールによって死滅してしまうという本末転倒なことにもなるんですよね。ですので、呼吸培養の方がアルコールの生成が無く出芽娘細胞の増殖率も高いので優位です。
ところが、腐朽菌と違う酵母の生命力の凄いところが「乾燥耐性」でして、酵母菌は乾燥状態でも休眠して生き続けられるということなんですよね。自然下での酵母の不活性状態が実はこれですし、パンを発酵させるときに使用される「ドライ・イースト」が正にこの乾燥粉末状態です。これをパン生地製造時にその都度種起こし(培養)して使用されているわけです。そう、我がオオクワガタ共生酵母菌京極株も乾燥させて粉末状にして保存しておけば、半永久的に継代培養が可能となるわけです。やはり、腐朽菌培養よりも遥かにお手軽管理と言えます(あくまでわたし個人の感想です)。
ということで、近々に共生酵母を乾燥させる工程を実施予定です。失敗の場合も考慮して一応、滑り止めに培養液でも同時継代培養しおきます。
菌床培地には液体の培養液よりも粉末酵母の方が漉き込み易いので、そういう使用法も今後はありかなとも考えています。
酵母ならなんでもよい?
No。
一応、注意喚起しておきますが、オオクワガタ由来の天然共生酵母とドライ・イーストでは同じ酵母は酵母でも種類がまた違いますので、保持している分解酵素も異なります。つまり、例えば、他種のドライ・イーストやビール酵母、日本酒酵母など(サッカロマイセス・セレビシエ)をオオクワガタ飼育に応用しても実効果は得られないであろうというのがその答えになります。あくまで特定の酵母菌本体とその酵素がセットで有益なのです。菌糸がヒラタケは良いけどシイタケじゃダメなのと同じです。ですので、ワイルド・オオクワガタ由来の天然共生酵母(ピキア・パストリス)は我々オオクワガタ飼育者にとっては大変貴重な価値ある飼育材だということなのです。
ちなみに、樹液木でも天然酵母による樹液発酵が起こっているのですが(あの泡立ちがその証拠です)、この樹液を発酵させている酵母もまた種類が違うんです。なので、クヌギなど天然木の樹液サンプルを採集してきてそれを培養しても、おそらく、目的の共生酵母菌だけを単離することは非常に困難かと思われます。というか、他の細菌類のコロニーが圧倒的多数で、菌叢の研究としてはおもしろいかもしれませんが、もしも、そこに混ざっていたとしてもオオクワガタ共生酵母菌の単離培養は至難の技なのではないかと思われます。必要な酵母菌は幼虫の消化を助ける酵母菌であり、この共生酵母は樹液木由来ではなく、腐朽材由来だと考えられている種類だからです。
そして、このオオクワガタの共生酵母菌は日本固有種というわけではなく、外国にも同じ酵母菌が存在していることが確認されており、クワガタ族の数種間で共生保菌し合っている共通種であるとのことです。つまり、この共生酵母はそれら特定のオオクワガタ以外のクワガタにも応用可能ということです。おそらく、白色腐朽菌による腐朽材依存種であると考えられますが、わたしは特にノコギリクワガタの生育に効果大なのではないかと考えています。
まあ、この共生酵母についてはわたしもまだ独自研究の初期段階でしかないので、現時点で言えることは少ないです。ただ、これまでに実使用しての実感は、何から何までオオクワガタにとって良いことづくめだということです。