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KYOGOKU流最強の餌素材 - パルプ
インセクト・ブリード界でパルプ培地菌糸を実使用してオオクワガタを飼育した
のはおそらくわたしが初だと思います。その第一人者と自負して申しますと、オオクワガタにパルプ菌糸は最強です。
オリジナル開発の基準点
おさらいというか、基本的なところからの説明になりますが、オオクワガタの幼虫はセルロース分解酵素を生成する共生酵母菌を体内に保菌しているので、培地のオガを食べても栄養として摂取できるのですが、実は、木材を切り刻んだだけの生オガを幼虫が食べても実は何の栄養素も摂り込めません。そこから資化できるセルロースを得るためには先ずリグニンが分解されていなければならないからです。リグニンは難分解成分として知られている物質で、セルロースとヘミセルロースとが三つ巴で一緒に結合されて木材という高分子体となっています。そして、白色腐朽菌こそはリグニンを分解できる数少ない微生物なのです。従って、菌糸瓶の培地である生オガは、先ず白色腐朽菌によってリグニンが分解された後にやっと幼虫にとって餌化されるということです。
最大のメリット
では、パルプ菌糸がどう最強なのか、それは炭素源として生オガよりも純度が高いからです。何故ならば、リグニンが人工的に除去されているからで、ヴァージン・パルプの原料は木材ですが、製紙化するには木材の強靭性を保っている繊維組織である高分子体のリグニン、セルロース、ヘミセルロースの三つの構成物質からリグニンを除去する必要があります。つまり、人工的にリグニンを除去してあるので、このパルプを培地として使用した場合、白色腐朽菌にとってはリグニン分解の手間が省けることになります。従って、腐朽菌は残りの有用炭素源であるセルロースとヘミセルロースを素早く分解し、栄養吸収することができるのです。また、リグニンに含まれる幼虫にとっては成長阻害物質であるフェノール質やタンニンなども一緒に除去されているで総合的に良質な餌材となるという副次的な利得があります。
要克服デメリット
ただし、菌糸瓶培地への使用にはメリットだけではなく、デメリットもあることが使用実験で判明しました。パルプは培地基質としての適正に関しては生オガ材よりも大幅に欠けるのです。それはどういうことかと申しますと、木材を粉砕したオガ、チップ材が菌糸瓶の基材として有効な一つの側面は、実は餌材として不要で難分解質であるリグニンが腐朽菌による分解過程の最後まで多く残存されているからでもあるのです。
培地基材としての硬度、それは、幼虫にとっては住処としての必要な強靭性確保のためですが、それにリグニンは一定の役目を果たしているのです。幼虫は培地の中で坑道を掘り進んでその中の空洞をその居処としていますが、これを維持するのに有効だということです。ところが、パルプの場合はリグニンが除去されていて、更に培地の分解が早いということは、つまり、その結果、培地が極度に軟質化してしまうのです。また、より腐朽菌による分解効率が良く、栄養吸収もされ易いので質量の減少率が高いということもその要因となります。つまり、培地痩せがより多く生じる。よって、培地内に大きな空洞が生じ易く、基材としての強靭性が保てないのです。純粋な炭素源としての優秀さの反面、パルプ菌糸瓶の実用化にはこれらの問題の克服が必須でした。
水分調整の重要性
木質を利用した培地の菌糸瓶であれ、オオクワガタ用餌材としては水分量が大事であることが実験検証により解りました。パルプ菌糸瓶では特に培地の初期含水率が重要となります。また、これは培地のボトル当たりの充填量によっても適切量が変化するので、調整が難しい点でもあります。菌糸瓶製作で標準的に推奨されている水分量を基準に加水すると、培地が極端な軟性基質となり、発菌にも支障を来たします。これは、正常に発菌した場合でも分解末期で躊躇となります。
そこで、アスペン・チップを使用したオリジナル菌糸瓶でも試した無加水培養をパルプでも試してみました。テスト・サンプルで、種菌が十分再発菌した時点で培地を掘り返して調べてみたところ、菌糸が未だ蔓延していない部分でも代謝水による水分が培地内に浸透し始めていることが確認できました。つまり、この腐朽菌自身による分解水分の培地内でのリサイクルで必要な水分は賄えると見ました。これは、アスペン・チップ材の場合でも同様でした。そして、完蔓延後の水分量としてもオオクワガタに適切と判断しました。ただし、菌糸の蔓延には加水の場合と比較するとやはりかなり時間が掛かります。
KYOGOKU流パルプ培地菌糸瓶(改)
ということで、アスペン・チップ培地に続いてパルプ培地でも無加水培養が2024 KYOGOKU流菌糸瓶の標準仕様となりました。単純な思いつきから実行した手法が意外なことに新境地開拓のアヴァンギャルド(最前線)となった感じです。
これで、分解が進行した頃の培地の水分過多問題はおそらく解決できると思うのですが、残るは空隙率の問題です。これは、蛹化時期に特に懸念される問題なので、完熟菌糸瓶への幼虫投入後の経過を確認してみないと未だ不明です。この培地基材の適切な充填量と水分の調整は培養実験検証を数回繰り返してみないと見出せないと思いますが、これまでの実験によって大凡の適正数値は狭められてきたかなというところです。今現在、仕込み中のパルプ菌糸瓶をKYOGOKU流パルプ培地菌糸瓶(改)として3令幼虫に実使用してみて結果を判断したいと思っています。