2020スタジアム噺
国立OPEN、そして専スタに吹く追い風
2020年、年明け早々話題になったのが、新しい国立競技場についての様々な感想だった。天皇杯決勝を観戦した方々の話を総合すると、「オリンピック用としては満点に近いスタジアム」と言えそうだ。使うのは開会式と陸上競技と女子サッカー決勝と閉会式(+パラの陸上)。ただし大会後どのように利用されるのかは棚上げされたまま。これは何も国立に限らない。陸上トラックが付いた巨大競技場、いわゆる国体スタジアムは存在意義から問い直されている。
一方で2020年は、用途を球技に絞った「専用スタジアム(以下・専スタ)」が本格的に動きだす節目の年になりそうなのだ。
専スタ建設のムーブメントが起こったのは、2015年から17年にかけてのことだった。この期間にオープンしたのは以下の通り(名称は現在のもの)。
2015年
・長野Uスタジアム(15,515人)
2016年
・パナソニックスタジアム吹田(39,694人)
・ダイハツスタジアム(5,124人)
2017年
・ミクニワールドスタジアム北九州(15,300人)
・ありがとうサービス.夢スタジアム(5,030人)
ちょうど上記の専スタラッシュ期間が過ぎようとした頃、「スタジアム・アリーナ改革」なるものを目にするようになった。政府が成長戦略として掲げたもので、掻い摘むと、スタジアムや体育館を単なるスポーツ施設としての箱ではなく、地域を活性化させ収益を生むような多目的・複合型の箱にしましょうね、という考え方だ。この点においては単なる体育施設の権化ともいえる国体スタジアムとは異なるベクトルに立っている。専スタ建設に弱いながらも追い風が吹きはじめた…のかもしれない。
2020年以降にオープンする専スタたち
そんな追い風とは関係なく、難産の末にようやく計画が実行に移されかけていたのが京都府の専スタだった。希少生物保護のため当初の予定地から用地の変更があり、そのため完成は1年遅れた。だが計画変更により駅から近くなり、吹き始めた「スタジアム・アリーナ改革」の風にも乗って、設計に複合施設の要素も盛り込まれた。
この京都を幕開けとして2020年以降にオープンする、または建設予定の専スタは以下の通り。
2020年
・サンガスタジアム by KYOCERA(京都府/21,679人=完成済)
・新富町新スタジアム(宮崎県新富町/5,000人予定)
・栃木シティ新スタジアム(栃木シティFC/5,129人予定)
2021年
・桜スタジアム【改修】(大阪市/25,000人予定)
・花園第2グラウンド【改修】(FC大阪/5,000人予定)
2022年
・今治新スタジアム(今治市/15,000人予定)
2023年
・長崎スタジアムシティ((株)ジャパネット/23,000人予定)
・金沢市民サッカー場【再整備】(金沢市/10,000人予定)
・沖縄新スタジアム(沖縄県/20,000人予定)
2024年
・広島新スタジアム(広島県・広島市/30,000人予定)
・水戸新スタジアム(水戸ホーリーホック/15,000人予定=用地未)
2025年
・山形新スタジアム(新スタジアム推進事業(株)/15,000~20,000人予定=用地未)
建設時期未定・構想段階(パース等公開レベル)
・相模原新スタジアム(相模原市/??)
・山梨県総合球技場(山梨県/20,000人予定)
・秋田新スタジアム(秋田県/10,000人?=構想中・用地未)
・福島新スタジアム(福島商工会議所/15,000人?=構想中・用地未)
・代々木新スタジアム(東京都渋谷区?など/30,000人?=構想中)
建設検討段階
・いわき ・栃木 ・湘南地域 ・沼津 ・静岡 ・三重 ・鹿児島 など
上記では2024年の広島までは建設用地が確定(つまり建設もほぼ確定)している。宮崎、栃木、花園はJ3ライセンス該当の小規模スタだが、それ以外はJ1ライセンスを取れる本格的な専スタ(金沢は15,000人規模まで増設を見越す)。2020年以降の専スタのトレンドは「スタジアム・アリーナ改革」の要素。京都、桜、長崎、広島はスポーツ以外の「にぎわい施設」等何らかの複合施設が併設される(はず)。まもなく本格稼働する京都のサンガスタジアムbyKYOCERAは「大河ドラマ館」という集客施設を併設しており、新時代の専スタの試金石になるだろう。そして「稼げるスタジアム」「人が集まるスタジアム」の旗艦になりそうなのが、100%民間資本で建設する長崎新スタ。ここは経営母体となるジャパネットが社員旅行でイギリスのトッテナム(スパーズ)新スタジアムを視察するなど真剣度が違う。一方でこんな凄い構想のスタジアムが本当に2023年までにできるか、一抹の不安も…。
今治はJ2以上を目指すためにはどうしても箱が必要だったところを市が用地を準備し、急転直下で新しい専スタ構想をぶちあげた。おそらく岡田武史氏がJ3昇格に際して周到に根回ししていたのだろう。ただし、箱自体は簡素なものになりそうだ。
沖縄は建設構想自体は早かったものの、その後話が具体化してきていない状況。ここも複合型となるはずだが2023年より完成が遅れる可能性がある。広島も建設用地は決まったものの、細かい詰めはこれから。行政が建てる場合、諸々の合意形成が重要なため、用地が決まってから時間を要してしまうこともある。長野市や北九州市がやったように首長のリーダーシップで一気に突破できれば早いのだが。
そういう意味では金沢は動き出せば早そう。現市長はツエーゲンの練習場整備の機運が高まった時にすぐに支援に回るなどスポーツ施策に好意的。今回の計画は建前上は現サッカー場の再整備だが、場所も動かすのでほぼ新設。建設用地的にも大きな問題はなく、計画段階の規模も10,000人と無理はない。予定の3年後までにキチンと建つのではないか。
水戸から下は実際に建つのかどうか不明瞭なスタジアム。水戸はクラブが自前で建てるとのことだが、さてどんな手段を使うのか。山梨は現在の甲府のホーム・小瀬スポーツ公園の駐車場部分を建設用地に見込むが、一旦立ち止まって構想の見直しというフェーズに入っている。前向きな案が出ることを期待したい。秋田は行政とブラウブリッツとシンクタンクとで候補地含めて諸々検討中。計画は「スタジアム・アリーナ改革」の先進事例としてスポーツ庁が紹介しているほど具体的なのだが、行政側の反応がイマイチで、やや雲行きが怪しい印象。山形もクラブとシンクタンクとで検討して県に計画を提出した段階で具体性はまだ。そして壮大な構想をぶちあげている代々木(渋谷)の新スタだが、正直ここがよくわからない。背後でいろいろ動いてるのか、とか、誰と誰が手を握っているのか、とか。スタジアムを使うのはやっぱりFC東京×ミクシィ?あるいは東京V?はたまたFC町田ゼルビア×サイバーエージェント?もしやアントラーズ×メルカリ…?構想の次なる続報を待ちたい。他にも諸々検討中の候補地があるが、専スタへの風向きを追い風にするためには、当面は「京都」と「桜」、そして真打ちの「長崎」の3つのスタジアムが成功するかどうかがカギになる。ともかくも2020年、専スタ新時代の幕開け。おあとがよろしい噺になればいいのだけど。