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#付き添い入院 経験者3600人への調査で分かったこと/「体験談募集」に寄せられた声をご紹介します!

こんにちは。大阪社会部の禹誠美う そんみです。

私は昨年12月、幼い子どもが入院する際に保護者が病室に泊まり込んで世話をする「付き添い入院」に関する note を投稿しました。

この中では、私自身の経験をご紹介したほか、保護者の生活環境の改善や制度の見直しを訴える声が多いにもかかわらず、国の対応がなかなか進まない現状をお伝えしました。

「付き添い入院」に関する前回の note はこちら☟

この note で紹介したNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京)の全国アンケートには、付き添い入院を経験した全国の保護者約3600人から回答が寄せられました。

ちなみに厚生労働省が2021年に実施した同種調査の回答者はわずか41人…。今回のアンケートは過去に例のない大規模なものとなり、付き添い入院の実態を初めて定量的に示す結果が得られました。

また、私たちが前回の note で呼びかけた「付き添い入院の体験談募集」にも全国の保護者からたくさんの声を寄せていただきました。一部の方には後日、改めて取材をさせていただき、共同通信の配信記事でも取り上げています。

今回の note では、こうしたアンケート結果や体験談で明らかになった保護者の声をあらためてご紹介します。長年指摘されながら、なかなか改善しないこの問題。ぜひ多くの方に関心を持って読んでいただければと思います。
 


アンケート結果を公表する「キープ・ママ・スマイリング」の光原ゆき理事長(右)ら

「キープ・ママ・スマイリング」のアンケートは、昨年11~12月にウェブ上で実施されました。対象者は過去5年間に入院中の子どもの付き添いや面会を経験した保護者で、最終的に47都道府県の3643人から、計583病院について回答が寄せられました。

以下、主な結果をご紹介します。

■8割が付き添いを「要請された」

本来、付き添い入院は任意です。「保護者が希望した場合に限って、医師が許可する」というのが建前ですが、病院側から付き添いを「要請された」と答えた保護者が79%に上りました。

付き添いを希望したかどうかを尋ねる質問には、71%の人が「希望の有無を問わず、付き添いが必須だった」と回答。制度上の建前と実態が乖離していることが明らかになりました。

 

■食事はコンビニ、半数が体調不良に

食べ物の調達場所に関する回答では「主に院内のコンビニや売店」が65%と最も多く、「病院から提供された食事(有料・無料)」と答えた人はわずか6%でした。子どもから目を離せないため買い出しに行けないことも多く、中には1日の3食全てが子どもの食べ残しだったという人もいました。

寝る場所は「子どもと同じベッド」との回答が最多の52%で、次に多かったのが「病院からレンタルした簡易ベッド」(33%)。夜も子どもの世話や看護師の巡回、同室の子どもの泣き声などで大半の人が十分な睡眠を取れていないことも分かりました。

1日のうち、子どもの世話やケアに費やした時間は「21~24時間」との答えが最多で26%を占めました。睡眠や休憩がほとんど取れない生活を続けた結果、51%の人が付き添い中に体調を崩していました。
 

■ルール違反の「医療的ケアの代替」も

公的医療保険制度では、小児患者の世話は医療従事者らの仕事とされており、その世話にかかる人件費も診療報酬でまかなわれています。しかし今回の調査では、回答者の大半が食事や入浴の介助を担っていたほか、保護者が人工呼吸器の管理やインスリン注射といった医療的ケアをしていた事例も確認されました。

また、付き添い中は保護者の食費や洗濯、簡易ベッドの費用などで出費がかさみます。「経済的な不安を感じた」と回答した人は72%に上りました。長期入院の影響で「正社員からパートになった」「退職を余儀なくされた」という保護者もいました。

 

■ 「体験談募集」に寄せられた22人の訴え

付き添い入院の過酷さを訴える声は、共同通信が前回の note に設けた「体験談募集」の窓口にも寄せられました。詳細なエピソードを送ってくださった保護者は22人に上ります。本当にありがとうございました。

一部の方には追加取材をさせていただき、共同通信の配信記事でも取り上げましたが、今回の note ではそれ以外のご意見もいくつかご紹介します。
 

「かなり無理をして何とか付き添える状況」

付き添いの交代は原則禁止。食事介助やおむつ交換、検査室へ連れて行く、薬の管理などの患児のお世話は全て付き添い者にさせられるので、とても疲れた。他にもきょうだい児がいるので、かなり無理をして都合をつけて何とか付き添えている状況。24時間付きっきりで食事をあげてね、お世話してね、あやしてね、患児を預かれないから付き添い者のトイレや買い物は寝ている隙に行ってねというのはあんまりだと思う。

(30代女性・2歳の子ども)

「本当に地獄、二度と経験したくない」

当たり前のように付き添いが必要と言われた。親の食事やベッドはなく、3食コンビニ食。夜は子どもと同じベッドに縮こまって眠らねばならず、機械音や見回りで睡眠不足。シャワーは昼間のみ、予約制で子どものそばを離れる時間がないためにそれもできず。ネットもつながらない。1週間で退院できたが、本当に地獄で二度と経験したくない。

(30代女性・0歳の子ども)

「大量の冷凍パスタで一食200円」

子どもの脳腫瘍で3カ月入院。付き添いベッドは1日千円だったが、気軽に借りようと思える額ではなかった。節約できるのは自分の食費だけなので、冷凍パスタを大量に買い込んで1食200円程度におさめるようにしていた。退院後も節約が続き、通院の際に高速が使えず、高速で1時間の距離を2時間かけて通った。それまで共働きだったが、働き続けられるか先の見えない不安や孤独と戦わざるをえなかった。

(40代女性・7~9歳の子ども)

「談話室でコンビニパンを流し込む日々」

コロナ禍で付き添いの交代は不可。一度、付き添いから面会に切り替えると、その後、再度付き添いに切り替えるのは不可。日中の外出は一度のみなど、いろいろと制約があった。子どもが寝た後にベッドを抜け出して、上の子どもとテレビ電話をしながら談話室でコンビニパンを流し込む日々が本当につらかった。計3週間の入院だったが、2週間で力尽き、子どもの体調が良くなってきたこともあり、その後の1週間は面会に切り替えた。

(30代女性・1歳の子ども)

「付き添えるのはありがたいが、食事面がひどい」

一時、けいれんや意識障害が起き、入院して3日ほどは命の危険もあったと感じているので、付き添い入院ができて、息子をそばで見守り、応援させてもらったことは大変ありがたかった。ただ、食事面が本当にひどく、3食がカップラーメンという日もあった。病院食を注文できたり、無理だったとしても病院の取引先のお弁当屋さんなどで外注できたらありがたいな、と何度も思う。

(30代女性・3歳の子ども)

家に残した娘を預けられず…「夜な夜な病室で泣いた」

(長男の付き添い時)保育園に入れていなかった年子の娘を見てくれる人がおらず、旦那には仕事を休めないと言われた。娘も一緒に入院できないか病院に相談したが「どちらかの両親に頼めないか」とお願いされた。看護師に「この日は付き添いができそうにない」と相談すると「どうにかならないか」と言われ、そこで耐えていたものが溢れてしまった。娘に急きょ会えなくなり、見てくれる人がいないと言っているのに、取り合ってくれない。夜な夜な病室で泣いてしまった。

(20代女性・1歳の子ども)

「ひどい環境、ストレスでじんましんに」

簡易ベッドをレンタルできることは入院時に説明が一切なく、娘のベッドで添い寝している。部屋は空調が効いておらず、暑さで娘がぐずって添い寝することを嫌がったため、パイプ椅子で寝ることも。食事を買いに行くタイミングがなく、ようやく行けた時に売店のおにぎりやパンを買いだめして食べている。シャワーは案内がなく、こちらから聞いてようやく教わったが、使用できる時間は正味20分。3人部屋なので、夜中に娘が泣くのが他の入院患者さんにも申し訳なくてつらい。とにかくひどい環境に、ストレスでじんましんが出るほど。

(30代女性・1歳の子ども)

 
寄せていただいた体験談は、いずれも極限状態で付き添われている方のエピソードばかり。私自身もコロナ禍での付き添い入院を2回経験したので、当時を振り返って深くうなづきながら読ませていただきました。
 

■付き添い入院は廃止すべき…?

建前と実態が乖離し、保護者に過度な負担を強いる付き添い入院。

いっそのこと、全面的に廃止されれば良いのでしょうか。

私はそうは思いません。子どもの回復や成長において保護者の存在は重要ですし、どんなにしんどくったって、親が子どもを放っておけないのは自然なことです。

「病気の子どものそばにいてあげたい」

その思いはどの保護者も一緒です。だからこそ、保護者が元気な状態で付き添える環境の整備や、24時間付きっきりでなくても安心して預けられる体制の確保などが重要だと考えています。

病児の福祉向上を目指す国際団体「病院のこどもヨーロッパ協会」は、その憲章の中で「病院にいる子どもたちは、親または親の代わりとなる人に、いつでも付き添ってもらえる権利を有する」と明記しています。こうした理念を体現するため、欧州では保護者に宿泊場所や食事を無償で提供する地域もあります。

日本でも、「キープ・ママ・スマイリング」の調査結果を受け、こども家庭庁と厚生労働省が2023年度中に医療機関を対象とした実態調査を行うと発表しました。アンケートに寄せられた親の声がついに国を動かしたのだと思います。

保護者の声と、医療現場の声。それぞれに耳を傾けながら、家族が過度な負担を強いられることなく、子どもが安心して入院できる環境をつくること。今の社会には、その実現に向けた取り組みが求められているのではないでしょうか。
 

今回のアンケート結果をまとめた記事はこちら☟

(「体験談募集」に寄せられた声や、「キープ・ママ・スマイリング」光原理事長へのインタビューも掲載しています)
 

禹 誠美(う・そんみ) 1987年生まれ、栃木県出身の在日韓国人3世。2013年に入社し、本社社会部、高松支局を経て大阪社会部で遊軍。

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禹記者が書いた付き添い入院に関する過去の記事はこちら☟