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「アツい夏を過ごそう」法廷で繰り広げる高校生の闘いを審査する
こんにちは。高松支局の広川隆秀です。
皆さんは今年の夏、どんな思い出ができましたか?
僕は高校生たちのおかげで貴重な思い出を作ることができました。
今年8月、四国4県の高校から選ばれた高校生が香川県高松市の高松地方裁判所(高松地裁)の法廷に集まり、模擬裁判の選手権が開かれました。
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今回の選手権では架空の刑事事件を題材に、高校生が争点を見つけ出し、検察官役と弁護人役に分かれて主張を闘わせました。有罪や無罪といった判決は出ませんが、審査員がどちらの主張がわかりやすいか採点し、勝敗を決めます。
今回のnoteでは、僕がこの高校生模擬裁判に裁判の様子をジャッジする審査員として参加した体験記を書きたいと思います。
裁判というと難しい印象を持つ人も多いかもしれません。正直、僕もその印象を持っています。ただ、高校生が真剣に取り組む様子は法廷ドラマよりもアツく、現役の法律家をうならせるものでした。そんな高校生模擬裁判の面白さをお伝えできればと思っています。
■ 始まりは一本の電話から
僕は現在、高松支局で経済を担当しています。主な取材対象は電力や鉄道会社、銀行、企業など。裁判を取材する司法担当ではありません。
ではなぜ、そんな僕が模擬裁判の審査員になることになったのでしょうか。きっかけは支局に来た一本の電話でした。
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夕方、支局で作業をしていると電話が鳴りました。「広川君、弁護士さんから電話だよ」。先輩が僕に取り次いでくれました。
「特に裁判の取材していないし、なんかやってしまったかな(街中でパトカーのサイレンが鳴った時のあの不安感!)」。内心でそう思いながら電話に出ると、知り合いの弁護士さんからでした。
弁護士さん:「模擬裁判って知っていますか? 8月に四国大会があるのですが、よかったら審査員やってくれませんか? 今年は若い人にやってもらいたくて」
僕:「え、僕がやってしまっていいの。法律詳しくないし、無理じゃないかな」
弁護士さん:「5人の審査員で判断するので、心配しなくて大丈夫ですよ」
不安な僕を励ましてくれた弁護士さん。こんな貴重な機会はまずないし、お役に立てるのであればということで引き受けることにしました。
■ 高校生模擬裁判ガイダンス
7月初旬、香川県代表の高松第一高校でガイダンスがあるということで、僕も出席しました
出席しなくてもいいとのことだったのですが、審査員を務められるのか不安だったのもあり、当日の雰囲気が少しでもつかめればと思い参加しました。
集まった高校生は学年もクラスもバラバラの約10人。
担当の新谷政徳先生は「顔と名前が一致していない生徒も多い」と話していました。
ガイダンスには、高松一高の生徒をサポートする支援弁護士や支援検察官らが参加し、裁判のイロハについて説明。その後、検察官役、弁護人役のチーム分けをし、1ケ月後の大会までの練習予定を決めました。
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専門家が裁判について説明するのは僕自身も大変勉強になり、正直、高校生がうらやましくも思いました。
例えば、次のようなアドバイスです。
「(弁護人役は)無罪であると立証する必要はなく、裁判官に無罪かもと思わせたら勝ち」
「(検察官役は)事案の真相を解明するのが一番大事。犯人ではない人を処罰してはならず、不利な証拠から逃げない」
現役の裁判官は、これから模擬裁判を闘う高校生に向け、裁判官が何を考えて判決に臨んでいるのかを話していました。
「起訴状一本主義で、それ以上の情報を裁判官は見ていない。法廷で情報が入ってくるので、裁判官は揺さぶられる心理状態にある。証人尋問や被告人質問は、戦略や目的を持って質問しないと、準備不足と感じる。検察と弁護人の両方に疑いを持っているから、裁判官側の疑問が解決されるのが良い論告・弁論となる」
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参加する高松第一高校の生徒にも話を聞きました。
模擬裁判の参加が2回目で、検察官役の植田雄太さんは「検察の仕事に興味があり、今年も参加しました。準備したことが発揮できるよう大きい声でやりたいです」と話してくれ、「不安はないです」と自信満々の様子。
一方、初参加で弁護人役の山根美咲さんは「弁論できるのか不安」と漏らしていました。
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新谷先生は、今年から模擬裁判の担当になったようで「今日のガイダンス、めちゃくちゃ真剣に聞きましたよ」と苦笑い。
模擬裁判の当日に被告人役を務める現役の若手弁護士は「模擬裁判は初めての体験。答えられない質問がきたらどうしよう・・・」と本音を吐露。
安心しました。どうやら、模擬裁判に向けて不安を抱える大人は僕だけではないようです。
ガイダンスは放課後の19時過ぎまで続き、最後に弁護士の言葉で締めくくられました。
「アツい夏を過ごしましょう!」
■ 大麻事件が題材
今回の模擬裁判の題材は、30代の被告人が大学時代のラグビー部の後輩と共謀の上、自身の契約するマンションで、営利目的で大麻を栽培し、譲渡したとして起訴された事件。
被告人は、後輩の男が単独でやっていたことで、自身は何も知らないと否認しています。
検察官役は被告人が後輩の男と共犯であること、弁護人役は被告人が無実であることを証明するべく、法廷で闘います。
高校生は事前に起訴状や供述調書などの資料を読み込んだ上で、証人尋問と被告人質問を行い、検察官役は論告、弁護人役は弁論を組み立てます。
審査員はそれぞれの論理構成などを見て採点し、勝敗を決めます。
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■ 高校生模擬裁判とは
ここで、高校生模擬裁判について説明をします。
正式名称は「高校生模擬裁判選手権」。2007年から始まり、今回で16回目の開催となります。
開催場所は全国各地であり、四国以外だと、関東大会(東京地裁)、関西大会(大阪地裁)、北陸大会(金沢地裁)、そしてオンライン大会があります。
主催する日本弁護士連合会(日弁連)によると、今年は2019年以来、4年ぶりに実際の法廷を使った対面形式での模擬裁判が復活しました。全国から計約30校が参加したそうです。
選手権の狙い=3つの力を育成する!
①事実を的確に把握し、多角的に考える力
②事実に基づいて論理的に意見を構成する力
③意見を分かりやすく他者に伝える力
*高校生と法曹界の交流といった目的も
高校時代、裁判について考えたことはもちろんのこと、法曹界の方たちと関わることが一切なかった僕にとっては、参加する高校生が贅沢に思えてなりません。
特に、現役の専門家から手厚い指導を受けられるのは、かなり珍しいことなのではないでしょうか。
もし、高校生の時にこのような経験があれば、今ごろ僕は記者席から裁判を傍聴するのではなく、傍聴される側になっていたのかもしれません・・・。
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■ いよいよ模擬裁判当日
8月初旬の快晴日、朝9時前に高松地裁に到着すると、駐車場にバスが止まっているのが見えました。既に高校生たちも到着しているようです。
中には早朝6時から練習していた高校もあったとか。
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「遂に来てしまったか」。不安を抱えながら入り口をくぐると、審査員の依頼をしてくれた弁護士さんがいました。
「広川さん、控え室はこちらです」。知っている人の顔を見ると少しほっとしました。
それもつかの間。控え室には審査員を務める現役の裁判官、検察官、弁護士、大学教授の錚々たるメンバー。
緊張しながらも挨拶を済ませ、運営側から当日の注意点などの説明を受けました。
「大麻事件が題材だけど、これって別に計算したわけではないですよね(笑)」
1人が、ちょうど世間を賑わせていた関東の某大学でのニュースを念頭に口火を切ると、少しずつ控え室の居心地も良くなってきました。
審査員にも高校生と同様、事前に裁判の資料が配られます。
審査員も資料を読んで模擬裁判の審査に臨むわけですが、中には実際の裁判と同じく「あえて資料は見てきていない」と言う人もいました。
さすがは法律の専門家。僕は前日の深夜もしっかり資料を読み込んで準備万端です。
香川から高松第一高校、徳島からは複数の高校からなる選抜チーム、愛媛からは愛光高校、高知からは高知国際高校が参加しました。
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■ 法廷でのアツい闘い
裁判は2法廷で行われ、各法廷に5人の審査員が入り採点をします。僕は、2試合を審査しました。
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<第1試合> 愛光高校(検察側)VS 徳島選抜(弁護側)
検察側の愛光高校は、論告の組み立てが上手なだけでなく、用意したスライドを効果的に使用して審査員に訴えかけているのが印象的でした。
弁護側の徳島選抜は、被告の共犯者の交際相手として出てきた証人尋問での質問が鋭く、また被告人質問を担当した大和天音さんが、被告人の疑義を潰していくような質問の展開を組み立て、完成度がとても高いものでした。
<第2試合> 徳島選抜(検察側)VS 高知国際(弁護側)
検察側の徳島選抜は、被告人質問を担当した吉田充輝さんと手塚百音さんペアが、「大麻を栽培する部屋は土臭くなかったのか?」など、被告の怪しいところを徹底的に追求していく場面は審査員たちもうならせるほど。被告人に有罪を認めさせそうな勢いでした。
弁護側の高知国際は、完成度の高い徳島選抜に対し、果敢に「異議あり」と挑戦する異議申し立てのタイミングが絶妙でした。
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結果は、優勝が徳島選抜、準優勝が高松第一高校でした。
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高校生たちの法廷での闘いは文字通りアツく、始まるまでずっと不安だった僕もすごく楽しめ、充実した1日でした。
参加した高校生の皆さん、本当にお疲れ様でした。来年の闘いが早くも待ち遠しいです。
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■ 審査員としての大仕事
さて、審査員を務めたからには出席者全員の前で講評をしなければなりません。
盛り上がった大会だけに講評の時間が限られていた(個人的には短くて良かった?!)のに加え、席順の都合で僕は最後を務めることになりました。
高校生の皆さんがあまりに優秀だったこと、また報道機関に携わる者としての思いもあり、こう締めくくりました。
「法曹界だけではなく、報道の世界にも興味を持ってください。皆さんみたいな優秀な人が入ってくれれば、我々の未来も明るいと思います」
会場の反応がどうだったのかは言うまでもありません。
一つ言えるのは、熱気を帯びた会場の良きクールダウンになった、ということくらいでしょうか。
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広川 隆秀(ひろかわ・たかまさ) 1997年生まれ、山梨県出身。2022年入社、高松支局で経済担当。ジャパニーズヒップホップが好きです。
〈皆さんのご意見、ご感想をぜひお聞かせ下さい〉
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