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熱力学と統計力学をつなぐ


昔飼っていたかわいいうさぎちゃん

はじめに

熱力学はマクロな平衡状態の系をみる学問である。統計力学はマクロな系をミクロな設定から初めて議論していく学問である。この2つの対応をクリアに理解したいと思ったので書いてみることにする。

熱力学

要請と原理

熱力学では、平衡状態に着目するために、まず大きく分けて2つの要請をします。この要請とは、

  • マクロ系は一時的に非平衡状態になっても平衡状態へ移行していく

  • 任意の系のそれぞれの平衡状態ごとに値が一意に定まるエントロピーという量が存在する

というものです。エントロピーって何なのか、気になりますよね。これはいろいろな意味を持っている量です。とりあえず今はエントロピーという名前をもつ何らかの量の存在を要請する、ということだけ言っておきます。

エントロピーで定義される物理量たち

このエントロピーは同じ状態の系を$${n}$$個くっつけたときに$${n}$$倍になる量(示量変数)を変数に持ちます。例えばエネルギー$${U}$$、体積$${V}$$、粒子数$${N}$$などです。
$${\displaystyle S=S(U,V,N,…)}$$
これを$${U}$$について逆に解いて
$${\displaystyle U=U(S,V,N,…)}$$
とすることもできます。($${U}$$について逆に解けるというのも、要請として与えた条件です。)
この$${U}$$や$${S}$$の偏微分係数として定義される量がみなさんご存じの温度$${T}$$、圧力$${P}$$や化学ポテンシャル$${\mu}$$です。(示強変数)
たとえば
$${\displaystyle T=\frac{\partial U}{\partial S}}$$
$${\displaystyle P=-\frac{\partial U}{\partial V}}$$
$${\displaystyle\mu=\frac{\partial U}{\partial N}}$$
のように定義されています。
つまり、エントロピーの関数を与えれば、これらの変数たちの関数もわかる、というわけです。たった2つの要請とエントロピーからたくさんの物理を見ることができます。

たとえば理想気体のエントロピー
$${S = \frac{N}{N_0} S_0 + R N \left[ \left( \frac{U}{U_0} \right)^c \left( \frac{V}{V_0} \right) \left( \frac{N_0}{N} \right)^{c+1} \right]}$$
を与えれば、気体の状態方程式$${PV=NRT}$$を導くことができます。

さらに、エントロピーの関数系を変えて理想気体に分子自身の体積や分子同士の相互作用からなる寄与を追加すると(van der Waals気体)、より現実のモデルに近い状態方程式を導出することができます。このように、ある系について$${U}$$または$${S}$$の関数系が定まれば、系の熱力学的性質を知ることができます。

それに加えて、最初に与えた2つの要請から、熱力学第1法則、第2法則を導くこともできます。ここまでで、2つの要請がたくさんの物理現象を教えてくれる、ということをわかっていただけたかと思います。
ここで疑問が生まれます、エントロピーの関数系、どうやって求めるの?

エントロピーの関数系の求め方

エントロピーの関数系を求めるのに、いくつか方法があります。それが以下の2つです。

  • 実験

  • ミクロ系の物理を用いる(量子力学、古典力学、統計力学)

一般にミクロ系の物理を熱力学で取り扱うようなマクロな系に応用するのは困難です。なぜなら、よっぽど単純な系でもない限り、マクロ系は自由度が莫大であり、また解くのが難しい非線形相互作用が存在するからです。そのため理論だけでなく実験の力を借ります。このように、物理学は基本的に理論と実験との2輪で成り立つ学問です。

ここで登場した統計力学の説明に移りたいと思います。


統計力学


統計力学とは、ミクロな原子や分子の力学的挙動からマクロな世界での様々な現象を導く学問です。
まず統計力学の前身にあたる理論が気体分子運動論です。

気体分子運動論の重要な点は、力学の問題に確率論を導入したというところです。
この気体分子運動論を踏まえ、さらに熱力学の扱うマクロな平衡状態の普遍性を用いて、ミクロな力学法則に基づいてマクロな系を記述するのが統計力学です。かっこいい!

統計力学の戦略

ではどうやって、マクロな平衡状態とミクロな力学を結びつけるのでしょうか。
マクロな系の平衡状態は、熱力学で言われるように$${S=S(U,V,N,…)}$$が一意に決まればただ1つに決まります。これに対しミクロな系でみると同じ$${(U,V,N,..)}$$に対しても、たくさんの状態が考えられます(膨大な数の分子がそれぞれ運動しているから)。
ではこの2つはどのように対応するのでしょうか。
ここである'仮定'をします。

仮定

それは、マクロに見て$${(U,V,N,..)}$$を持つ、ミクロ系の多数の状態のうち、ほぼすべての状態が同じ性質を持っているという仮定です。ほぼすべての状態が同じ性質を持っているから、マクロでみると状態がただ1つに決まっているように見えるというわけです。
この仮定を踏まえて、ある原理が成り立つというモデルを適用します。それが等重率の原理です。

等重率の原理

等重率の原理とは、マクロに見て$${(U,V,N,..)}$$を持つ、ミクロ系の多数の状態がすべて同じ確率で現れるという原理です。
統計力学ではこのような確率論の考え方を用いて、様々な物理を導きます。

なんとなく熱力学と統計力学の対応が分かっていただけたでしょうか。明日も授業があるので寝ます。おやすみなさい。よい1日を。


清水寺こんなアングルで撮ることある?









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