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評不可能・スリーピルバーグス『旅と渓谷』@永福町駅ふくにわ、2800円
スリーピルバーグス旗揚げ野外ツアー『旅と渓谷』@京王井の頭線永福町駅屋上庭園 「ふくにわ」、2800円。5/16~22。この後、札幌5/25~27、北海道・中富良野5/30~31予定。
上演予定時間50分(公式)、55分(現場説明)、休憩無し。
※ネタバレなのかどうかもわからない。
「観劇候補」チラシの中から終演間際に発掘
芝居はアナログの世界だと思うのは、行く度にもらう(昨今はコロナ禍で自由選択も増えた)、別の団体の公演の宣伝チラシ(業界ではフライヤーって呼ぶんですか?)だ。よく見る折り込み屋さんは、だいたいこちら。
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この紙が二つ折りされ、間に10数枚前後のチラシ、フライヤーが入っている。時々半分大の白い紙も入っているが、あれはなんだろう(自分はメモ用紙に使う)。チラシの大半はゴミと化す(中には完売済みの公演もある)。多色カラー刷りで金かかってんなあ、無駄だなあ、と思わないわけでもないが、一応目を通し、その中からひょいと気になる公演を見つけ、足を運ぶこともあるので、決して無駄ではない。アナログな自分にはネットより来る。
まず作品、作家、劇団や俳優(ユニットの場合、所属劇団も含め)、演出家を見る。さらにキャッチコピーなどで興味を持てば、日程、料金、劇場(上演場所)の確認。
この時点で他のチラシはゴミに(同じ公演のダブルものも)。残ったチラシで「絶対に観たいもの」は予約作業に入るが、大半「観劇候補」としてしばらくキープされ、いつの間にか日程を過ぎているとゴミになる。
今回の公演は、上記の折り込み屋さんかどうかは覚えていないが、たまたま「観劇候補」を整理していたら、再発見された。どっかの公演で一枚きり、入り込んでいたチラシ。終演間近、奇跡の発掘。何かの縁か。席は結構売れてるようだが(え、そうなんだ?)確保できそう、予約する。
決め手は「野外ツアー」だけ
決め手は「野外ツアー」、ただそれだけである。
稽古のための集団が、上演することになったらしい。
よくわけのわからない、変な集団らしいが、それも一興。と思っていた。
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作・演出の福原充則は岸田賞受賞者で『あな番』の人だった
行く前に時間があったので、珍しく検索したら、作・演出の福原充則(みつのり)(46)は2018年、『あたらしいエクスプロージョン』で第62回岸田國士戯曲賞を受賞、2019年、日本テレビ『あなたの番です』の脚本やってたりするんだ。へー。チケット予約後に初めて知る。そっかー、だから、なんか「じみへん」ぽい芝居なのに、チケットほぼ売れてるのか、納得。
岸田國士戯曲賞といえば、神里雄大・岡崎藝術座『バルパライソの長い坂をくだる話』を前に観る機会があったが(2019年8月、東京ドイツ文化センター、前売4000円)、面白い部分もあったが、見事に途中寝落ち(すみません)。確か原作も買って読んだが、わからん。後で演劇に詳しい人に「最近の岸田賞ではわかりやすい方」と言われた記憶。その人の私見では、岸田賞は前衛的作品を選ぶ傾向が強くなり、鶴屋南北戯曲賞の方が「普通」っぽいそうな(いや、すみません)。
で、福原「あたらしい~」と神里「バルパライソ~」は2018年の同時受賞だったのだな、初めて知る。初めて知ることだらけだな、若くないのに。
それなりの評価を受けた人の作品を見るのもまた一興。「鬼才」か!
あと、51歳の人が出るんだ、野外で。へえー。
そういやチラシの制作のところに、ヌトミックの人の名。おおと、自分の過去寝落ち十大公演(なんじゃそりゃ)のひとつだ。ま、しかし野外だし大丈夫だろう(ひたひたと迫りくる何か)。
雨の予報だが、前に(2019年11月23日)、池袋西口公園野外劇場で、宮城聰『マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜』を寒い雨の中見たけど、大丈夫だったし。富山・利賀村の野外劇場でも雨に降られたような。ま、大丈夫だろう(ひたひた)。
合羽を用意して出かけた時は、まだパラパラだった雨
当日、ぴろぴろメールが来る。観劇リマインド。特に野外公演のため、当然ながら雨天時の注意がメーン。下記はチラシ裏面だがほぼこんな話。
荒天でない限りは雨天でも上演。雨具・防寒具等は各自のご判断でご用意。観劇中の傘のご使用は禁止。
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天気予報を確認。夜90%。うむ。雨合羽を持ち、ハイキング用のズボンをはき、荷物も濡れないよう準備。いざ。外に出たら、まだ曇りに、うすーくパラパラ降ってくる程度だった(ひたひたひた)。
さて、ここからがこの話の本番だ。もう予想はつくだろう。そう、ご想像に添うような展開が待っていた。
永福町駅屋上庭園 「ふくにわ」への道
京王井の頭線・永福町駅に着く。外は雨パラパラ来ている。この駅ビル・京王リトナードの屋上に上演場所がある。
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カルディや雑貨店のある2階を経てさらに上へ。「ふくにわ」への入口。今回こっちは入口ではない。ふくにわ自体の開園時間8ー19時のため、その後に2回公演の模様。
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まだ前の回の公演をやっている。啓文堂書店の上(の「ふくにわ」)から台詞が聴こえてくる。あちゃー。ネタバレじゃん(は杞憂と後で知る)。ネタバレまでいかずとも、芝居の雰囲気はわかる。まあいいか。
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ダイソーもあった。暇つぶしに入り、前から予備に買おうと思っていた冷蔵庫用強力脱臭剤を買う。何をしているのか。啓文堂書店にも入ってみる。
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前の回の公演をやってる最中に、階段の下で受け付けをしている。
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さてさて、上から拍手が聴こえてきて、前の回の公演が終わったらしい。その辺りにそれぞれに雨合羽を着る人たち、そして、呼ばれた順番に階段を上がり、「ふくにわ」へ。この辺で雨がやや本降りに変わってくる(ひたひたひたひたひた)。
始まった時は、普通の降りだったと思う
さて、雨の中、人々が座っていく。できて久しいと思われる水たまりが照明に、光る。やはり屋上はやや涼しい。雨合羽にマスクの怪しい風貌の人たちがずらりと並び、その前で、前説が始まる。
前説の間は写真を撮影していいというので、雨の中スマホを取り出し、思い思いに撮る。まだ余裕だった。
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そうそう、この芝居のキャッチコピーは
誰も知らない渓谷を旅する8人と通り過ぎる土地の人々27人を4人で演じる〝ガリバー旅行記ガリバー抜き系物語〟50分!
なのだが、この前説も、既に、27人のうちの一人の格好らしい。
なお、50分とあるが、直前の説明では55分予定。
既にこの辺りで「雨天でも公演とお伝えしてきましたが、この雨で観るのが難しくなってきたら、ご自由に退場されて構いません」という旨のアナウンス。
「せっかくスマホを取り出したところで、当日パンフのQRコードを」と運営側。福原らが、QRコードを大きく印刷した紙を貼ったボードをかざして回る。「本当はここで読み込んでもらって公演前に読んでもら」。いやあ、雨だし。
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さて、運営側に特段問題はなかったはず、と書いておく。
「荒天でない限りは雨天でも上演する」と事前に告知している。雨合羽や防寒注意に言及している。
ほんとに直前まで、そんなに凄い降りではなかった。入場して座った前後から本降りに変わったかな? それでも公演開始時は「普通の降り」と思う。風はなくほぼ上から下に降るし。「なんのなんの大丈夫」と笑う余裕があった。
途中からザーザー降りに、でも55分の公演だし
芝居の序盤から、ザーザー降りになってきたのだ。ザーザーザー。
雨脚はどんどん強くなる。
雨合羽はかぶっているが、袖口から水が浸入してくる。あ、ズボンが濡れてきた。あれ、これ山用だったけど防水じゃなかったっけ、ありゃ失敗。雨がぼと、ぼと、ぼとぼと、ザーザー重みを持って合羽の上から落ちてくる。
芝居の筋は一応頭で追おうとしているが、びしょぬれの役者の顔を見て、「この人は内心どう思いながらこの芝居をしてるんだろう」と思う。もはやこれは没頭ではない。ブレヒトの異化効果か! わけのわからん頭。
雨を共に浴びまくり、それに耐える時間を共有する、舞台と客席の一体感ってやつ、なのか、なあ?? まあ、それも一興wwwww
雨脚が強くなると、笑ってしまう。二度。三度目に自分は大丈夫かと思う。
ひとり、ふたり、客が去っていく。
2、3時間の芝居なら「持たない」と判断し即帰りそう。でも、この芝居55分だし。なんとか持つんじゃないか。せっかく金払ったし最後まで観たい。
もはや、そう、あれです、自分の中では我慢大会、の様相。
体温が「カチッ」と一段下がった
途中で芝居を中断し、福原が出てきて「位置的に帰りにくい場所に座ってらっしゃるお客さんもいると思います。帰りたいけど帰りにくいという方は遠慮なさらずに退場されてください。まだこの芝居、あと30分はありますし。お客さんがいなくなっても我々は演じ続けますが」と言う。
再開。
役者がとびはね、水たまりの水が飛ぶ。役者の髪が頭にはりついてる。
でも役者はまだ動いてるし演じてる緊張感があるから、持つ。雨合羽を着ているとはいえ、じっと動かずにいる客の方が冷えていく。
まだ大丈夫まだ大丈夫、あと何分だろう、と思っているその時。
体内で温度がカチッと音をさせて一段下がった気がした。
「あ」
これは、もうダメだ。
退場、ひたすら帰宅
今ならきっとまだ間に合う。このままここにいると、自分は風邪をひくっ可能性が高い。
近くで「あなたは大丈夫? 私は大丈夫だけど」と連れの人に声をかけている人がいた。その声をきっかけに立ち上がり「私はもうダメです」となぜか自分の無関係のその人に声をかけ、もう決めたからには足早に立ち去る。
下り階段のところでスタッフが駆け寄り、あかりで足元を照らしてくれ、「足元滑りやすいのでお気をつけてお降りください。ここまで観ていただいてありがとうございました」。
なんの、運営側に手落ちがあったとは、この状況では思えない。雨の予報だったが、ここまで急に本降りになるとは自分も思わなかったし。
もはや、帰ると思ったら、帰るだけだ。これから電車を乗り換え乗り換えおうちに帰るのだ。おうちで早く着替えてあったかくするのだ。
外側ずぶぬれの雨合羽を脱ぎ、手に持って電車に乗る。ズボンは濡れているので立ったまま。
自宅最寄りの駅を出ると雨がほぼ上がっており、「自分が出た後に雨脚が止んだか」と一瞬損した気持ちになるも、「いや、冷え始めた体であのままあそこにいたら、自分の場合は風邪をひく。自分としての判断は間違っていない。個人で体質は異なる。大丈夫な人は大丈夫でも、自分は自分で判断したのだ」と自分に言い聞かせ、家路を急ぐ。
身体の芯まで冷えてはいないが、濡れたところにあたる夜風が、まるで冷蔵庫の中を歩いている感覚にさせる。
池袋西口野外の『マハーバーラタ 』の時は大丈夫だったのに……と思いを巡らせ、そうか、あの時は昼だった。3年前だし、今より2歳半若かった。
利賀村の野外の方はそれほど本降りでなく、夏だったしな。。
家に着くとすぐ着替え、あたたかいスープを飲んで風呂に入った。ふー。
多分、風邪は引いてないと思うが……。
自分の判断で自分で退場できたけれど
不謹慎かもしれないが、知床遊覧船の沈没事故を思い出した。
今回、自分は「ここにこれ以上自分はいてはいけない」と自分の判断で退場した。それが可能な場所にいたし、運営側もでき得る限りのことをしたと思う(ただ、入場直前にあのザーザー降りでもやったか、返金したかは不明)。
自分の天秤は、支払ってしまった入場料2800円∔やはり最後まで観たい・途中で退場するのは悔しい思いVS風邪等体調崩す危険。
あの遊覧船に乗られていた方々は、そこから退場できなかった。その船に乗った時点で、船長に命を預けたのだ。
重い。
当日パンフにははははは
さて、改めて、QRコードから読み込んだ当日パンフを見る。
ははは。
福原充則
雨に濡れたらごめんなさい。
ははははは。
佐久間麻由
雨、降るといいなぁ…
はははははははは。
佐藤貴史
雨の日だったらより格別とだけ言っておきます。
はははははははははははははは。
公式ツイッターより
伝説の土砂降り回になりました!
お客様のおかげでなんとか乗り切れました!~佐藤貴史
2ステ目は55分の土砂降り演劇でした。
さすがに「帰りたいけど言い出しづらい」というお客さんもいるかと、急遽芝居を止めて途中退場タイムを設けてしまいました。帰られたお客様も最後まで残って頂いたお客様もとにかく感謝、感謝です。~ピチチ5(&福原充則)
以上。
自分が運営側なら最後まで歯を食いしばってやるし、お客様には安全でいていただきたいけど、観てももらいたい。苦しいなあ。そこそこの雨ではなかった。あの天気急変、土砂降りを予測するのは不可能でしょう。お疲れさまでした。ラジカセ、大丈夫だったかな。
芝居も、観たところまでは筋は覚えてます。
私はおかげで今日は(も)元気です。ちょっと興奮してこんな長文書いてしまったが。
評不可能。