祝読売大賞・評⑯NODA・MAP『フェイクスピア』芸劇プレイS席12000円
※以下、重要なネタバレ含む
野田秀樹(66)主宰NODA・MAP『フェイクスピア』が第29回読売演劇大賞(2021年に国内で上演)の大賞・最優秀作品賞を受賞した。主演の高橋一生(41)は最優秀男優賞。おめでとうございます。演劇系の人は反体制っぽさをまとう傾向があり、「(保守寄りの)読売は……」と言いながらも、読売演劇大賞はきちんとした賞として認知するので、「演劇に関しては(もごもご)……」という微妙な存在の読売の賞。演劇界で権威ではある。
なお、NODA・MAPの大賞は第15回(2007年)『THE BEE』、第18回(2010年)『ザ・キャラクター』に続く3回目。最優秀作品賞は今回7回目。なお、故・蜷川幸雄は大賞獲得が3回(演出作1、演出家2)なのに対し「尊敬している、いつかは超えてやる」(野田、読売記事より)だそうだ。
さておき。東京公演2021/5/24~7/11、大阪公演7/15~7/25だった。
2021年6月29日(火)夜、東京芸術劇場プレイハウスS席12000円で観た。
しかし、このnote評に書いてなかった。というか、7月頃の下書きのまま放置(それにも何らかの意味はあろう。今読み返したら、まだ上演が続いていたのでネタバレ含め遠慮してたらそのままになったようだ)。読売演劇大賞記念で、引っ張り出して加筆して載せることにする。
<以下~2021年7月時点の書き込み>
この直前にnoteに書いた小劇場トーク「ある小劇場系トークから(2021年7月3日)」で、「劇団とユニット」の違いを書いて、つらつらその後考えていたら、
劇団=伝統的日本の会社的組織
ユニット=欧米系即戦力カンパニー
という気がした。まあ、誰かがどこかで書いているそうな考察だが。一応自分の頭で浮かんだ。
で、NODA・MAP(野田地図)である。『ファイクスピア』。
※以下、ネタバレ含む
ユニット制で白石加代子登場
前の小劇場トークの中の話との、自分の頭の中でのつながりは、
1.野田地図は演劇企画制作会社。劇団ではなくユニット制で、ワークショップ基盤のプロデュース公演を行う(以前の「夢の遊民社」(1976~1992)は小劇場運動第三世代の代表的な劇団のひとつ)(主にwiki参照)。
ユニット制、つまりいいとこどり。
2.小劇場トークの中で、流山児祥は「英国エジンバラで(アングラの)鈴木忠志の公演とちょうど鉢合わせ云々」と言っていたが、今回『フェイクスピア』出演の白石加代子は鈴木忠志のもとで花開いた「狂気の女優」。鈴木忠志なかりせば存在しえなかった。
「言の葉」にこだわり続けた野田の40年余り構成
さて、『フェイクスピア』。
まだ公演が続いているので、作品に敬意を表してネタバレは最低限にしておくよう努力する。なので、中途半端な話になってしまうが。
野田秀樹は個人的にあまり得意でない。自分の作・演出にほぼ出演してくるところも、自分の作品を手放していない感があって。。めんど。まあ、でも野田地図だしなあ。といっても前作『Q』しか観てない(※その時点で)。
脳みそを野田さんにゆだねる……怒涛の伏線回収
……と思って観ていると、序盤から速い速い。台詞回しはもちろん、役者の動き、転換の仕方(独特)、上下左右前後に展開していくストーリー。メーンの役者たちはもちろんだが、アンサンブル=コロス=カラスたちがしっかり身体を動かし演技しきって支えているのが、全体を盛り上げる。彼女彼らが舞台装置のようである。
速くて着いていけなくて、途中から頭を使うのをやめ、脳みそを野田さんにゆだねる。まあ、とっちらかってるけど、野田さんだから大丈夫だろう、ところであの台詞はどういうことなのだろう。……と、思っていると、怒涛の伏線回収が始まり。。うーん。さすが。
シェイクスピアのフェイクであることは当初からネタバレ。なので、ロミジュリと源平をミックスした前作『Q』のようなイメージかいな、と思っていたらそれは罠だった。。しかし、最低限四大悲劇は大筋でも知っていないと劇についていけない。客にも頭の回転を求める。
<※~以上が2021年7月時点の書き込み>
以下、重要なネタバレ
あの悲惨な大事故がモチーフ、という伏線回収
で、もう各所でネタバレしているので書くが、1985年(昭和60年)8月に群馬県上野村の通称御巣鷹の尾根で起きた日航機123便墜落事故(乗客乗員524人中死亡者数520人、生存者4人)が重要なモチーフ。
最初から飛行機操縦に関する「言葉」が舞台で無意味のふりをして、何度も語られている。しかし、観客はおそらく気づかない。シェイクスピアのフェイクと、青森・恐山のイタコの話の組み合わせだろうと思っていると、最後にどどどどどど怒涛の伏線回収。うわー、そうなんだ、と。日航機事故を知らない世代にどう響いたかはわからないが、少なくともその事故をリアルでニュースで見聞きした人間にはちょっとしたショック。何がショックかというと「ああ、忘れていた」ということ。忘れるのは仕方ないのだが。
脳みそに言葉が詰まってずっと動かしてきた野田
そして、「言葉」が野田を突き動かしている。もともと演劇のトップランナー(と言って間違いない)として40年以上走ってきた野田。その頭の中にはいろんな言葉が詰まり、目まぐるしく動き、変化しているのだろう。
なので、「速い速い」でついていけない感があり、途中で野田にゆだね(まるで宗教のようだ)、でも、最後はきちっとびっくりさせてくれる。
作、演出、出演を同一人物がこなすのは、自分はあまり好みではない。ただし、野田の場合は、もうその頭の回転と勢いで押し切られる。見事(でも、脳みそは野田の演技を観ていない)。
目立たない演技、で主役を張った高橋一生
橋爪功、白石加代子(いずれも当時79)の両老優が実は目立ちまくっていたと感じた舞台。
白石加代子が開幕数日後の舞台で台詞を忘れ棒立ちになったというまた聞きの話は自分にとってかなり衝撃的で、自分の観劇の間中、また棒立ちになるのではないかとひやひやして落ち着かなかった(さすがにそれはなかった)が、それはさておき。
ものすごい「速い」舞台で、80歳の老優が、ぼんぼん台詞をしゃべり、舞台転換(布を使ったこれも見事)にも対応していく。手練れ感。よくこの速さについていけるな。。
でも、この、橋爪、白石を際立たせたのは、主演の高橋一生だった。悪目目立ちしていない。老優がどうしても身体的動きの柔軟さ、速さが劣るところを、高橋がさりげなくフォローしている。目立たない演技、で主役を張る。なかなかの逸材でないかと思う(偉そうに)。
つまり、舞台は集団創作だから、結局全体のバランスなのだ。ひとりが目立つ舞台を見たい人もいようが、自分はそうでないので。
なお、前田敦子。演技の上手い下手は記憶にないが、舞台に立った時に輝き、オーラ、存在感、は覚えている。さすがAKBセンターを務めてきた舞台人だと感心した。
また、芸劇は芸術監督である野田のホームグラウンド。プレイハウスの空間を、動きながら埋め、空白を作り、また埋める、という動きで無駄が多分あまりなかった。
……と、こんな感じ。12000円、懐痛いけど、それだけの価値はあった。作・演出・出演はそれでも好みではないが。
脳みそをほじくられる。しかし、負けないぞ、野田秀樹に。
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