評㉑三月大歌舞伎第三部『石川五右衛門』他、一等席都民割8705円
前に観たのもたまっているが(全部書くとは限らないが)、後にも観劇予定が詰まっていて、先のコクーン歌舞伎との比較もあり、とりあえず書く。
都民半額観劇会
三月大歌舞伎、近松門左衛門作『信州川中島合戦 輝虎配膳(一幕)』(18:30~19:13)と戸部銀作補綴『増補双綴巴 石川五右衛門(三幕五場) 松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候』(19:43~20:55)@歌舞伎座。正規料金は一等席16000円(税込)だが、都民半額観劇会の追加案内で“当選”で8705円(8500円∔手数料)。追加案内が来たということは、客の入りがそういうことだと思う。
ちなみに、二等席12000円、三階A席5500円、3階B席3500円、1階桟敷席17000円(いずれも税込)。イヤホンガイド700円。
半額(より高いが)なので観たため(後述のコクーン歌舞伎との比較もあるが)、演目は後で知った次第。
コクーン歌舞伎を観て比較したくなった
正統派の歌舞伎を見るのは二回目か?(せいぜい3回目)。ん十年前に「助六」をイヤホンガイド付けて観たが、ちんぷんかんぷんだった。とっつきにくいなと思った。どうやら事前にある程度作品の背景を頭に入れたうえで、そのパートだけ演じる、を知っとかないといけないらしい。やれやれ。「〇〇屋!」のかけ声に、御贔屓のいる常連さんとの差を感じたのだった。
それからン十年、ここ最近で芝居はそこそこ数を観たし、日本演劇史で歌舞伎をはじめとした伝統芸能の骨格は一応頭に入れ、主に新劇批判の系譜に於いて歌舞伎や能・狂言を見直し取り入れる流れがあることも認識している。スーパー歌舞伎『オグリ』やコクーン歌舞伎『天日坊』も観た=評⑱コクーン歌舞伎再演『天日坊』一等席12500円(割引)、素直に面白かった(2022年2月15日)。そう、最近コクーン歌舞伎を観たから、改めて正統派の歌舞伎を観て比較しようと思ったのだ(ちなみに、コクーン歌舞伎『天日坊』は公演終盤の2月下旬、出演者らに30人以上のコロナ陽性者が出て千秋楽などは公演中止。「クラスター」と報道されないのは、松竹だから??)
芝居のひとつとして観る姿勢はできている。もう、初心者だからとびびることもない、いざ。そうそう、忘れていけないイヤホンガイド700円。
場外で貸し出していた。
以前の勉強した資料を引っ張り出すと、三月は「弥生狂言」。江戸城腰元の宿下がりの時期で、女がいい男を観る“芸能ダネ”が多かったという。お家物として、「助六」などが演じられたらしい。ということは、ン十年前も、三月にここで自分は観たのだろうか。
久々の歌舞伎座の中
歌舞伎座に久々に来る。午前11時からやっていた第一部は、スーパー歌舞伎も手掛ける横内謙介脚本演出・市川猿之助演出『新・三国志 関羽扁 市川猿之助宙乗り相勤めし申し候』だ、うーん、こちらに客をとられそうでもある(すみません)。横内が歌舞伎に新しい風を吹き込んでいるのなら、それはそれでいいことと思う。
新橋演舞場、明治座は時々行っていたので、そういや、こういうところは幕間のお買いもの用にいろんな出店があるのが特徴と思っていたが、一階は売店が一か所くらいで、にぎわいはあまり感じられない。上演前や幕間に探索する。
地下一階のトイレ、女性は個室が28室。
二階、売店と、いろんな絵。
三階、いろんな売り場。あった。でもこじんまり。
現在の歌舞伎座は2013年に建て替え、その際だったか、地下鉄東銀座駅の通路に直結し、防災拠点ともなる大地下(劇場外)がオープン。そこにコンビニも含めて売店が集結する形になったので、場内のお買い物は減ったのか。コロナの影響もあるかも。
割引き料金のせいか、花道から遠い
客席に入る。客の入りは確かに……、そういうことだ。そして、都民半額観劇会の人たちも多そうな雰囲気。席は一階で比較的前列だが、上手にかなり寄り、花道が遠い。また舞台では真ん中よりやや下手(花道に近い方)に役者の演技が集中しがちなので、見やすいとは言い難い席だ。割引とは言え、イヤホンガイド入れてほぼ1万円だしなあ。
竹本義太夫や三味線は上手に登場したため、近く観ることができた。
川中島の戦いや石川五右衛門は“常識”
最初から最後までイヤホンガイド付けっ放し。本当は時々外して、ガイドのない世界も味わってみたいが、何せ「初心者」(多分一生そうだろう)だし、700円払ったし。で、そのイヤホンガイドがやたら「常識、常識」と言う。つまり、川中島の戦いや石川五右衛門の話は有名なので、当時の客があらかじめ知っているという前提で芝居が進むという。
芝居に臨む客のあり方として興味深い。
歌舞伎の「三婆」のひとつ、山本勘助の母・越路
まず、近松門左衛門作『信州川中島合戦 輝虎配膳(一幕)』(18:30~19:13)。これは、武田信玄の軍師・山本勘助の母・越路を演じた中村魁春の舞台ですな。イヤホンガイドが「今回山本勘助は出ませんが、NHK大河で内野聖陽さんが演じました(『風林火山』2007)、その母」。
越路出てくる。勘助を育てた母らしく、「女なのに」勇ましい。かくしゃくとしている。そもそも、男性が演じる女形なのに、「男のように」堂々としている。ん? 男が演じる女が「男らしい」?、こりゃ難しそうだ、と思っていたら、イヤホンガイドが「歌舞伎の三婆のひとつ」と解説。
そうか、有吉佐和子の方は観たことあるが、元はこちらか。もう目が母・越路に吸い寄せられてしまう。
芝翫演じる輝虎(上杉謙信)にすげなくし、ひじをつく(?)だったか、その辺の所作が結構長い間「ぴたっと止まっていた」ように見えた。ううううむ。
もとが人形浄瑠璃からの義太夫狂言なので(byイヤホンガイド)、ぴたっと止まった様が人形のように見えたのも、さもありなん。とにかく印象的な越路だった。
勘助の妻・お勝(中村雀右衛門)が琴で歌うのも一興。
30分の休憩。
そうか、『絶景かな』は石川五右衛門
戸部銀作補綴『増補双綴巴 石川五右衛門(三幕五場) 松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候』(19:43~20:55)。
イヤホンガイドが「釜茹で、とよく言われますが、釜炒りです。煮えたぎった油」。ひええええ。
誠に無知で恐縮だが、『絶景かな、絶景かな』という台詞を聞いて、あれ、石川五右衛門の台詞なんだと知る。はい、不勉強です。
その、石川五右衛門たる松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け、は面白かったが、自分の席からはやや遠かった。花道に近い二階席、三階席の方がよかったかも。
舞台美術。桜が満開だったの非常に印象的。ちょうど外の東京の現実では、桜が咲き始めていたのだ。
秀吉を模した此下久吉(中村錦之助)と、わいわい話す場面は、庶民的で心の緊張を解くもの、といいつつ、此下は下心あり、さて五右衛門どうなる、で終わる。それもまたよしか。歌舞伎に、慣れたか。
「わが刻(とき)はすべて演劇」
かけ声無し、席で弁当NG、イヤホンガイドありきの初心者
……と言うことで、歌舞伎役者は、所作がぴしっと綺麗で、見得を切る、衣装が綺麗、舞台も華やか、というお定まりの感想。評とも言えません、すみません。
そういや、
コロナ禍のせいで、「〇〇屋!」のかけ声がないのが寂しい。
コロナ禍のせいで、席で弁当が食べられないのは寂しい。
そういや、
イヤホンガイド付けっ放しだった。それでやっとそこそこ理解できたのだ。しかし、本当はイヤホンガイド無しに楽しみたい。でも、それは「無知な自分」はいけないのか? いやあ、歌舞伎はもともと「江戸時代の現代演劇」なのだから、時代に合わせて変化していくのが、あるべき姿だ。やはり、コクーン歌舞伎やスーパー歌舞伎みたいに、イヤホンガイド無しで素直に演劇として楽しめる方に足が向くだろう、少なくとも自分は。
ただ伝統芸能は伝統芸能として残さなければいけない(例えば、中国の京劇などのように)。歌舞伎も変化を求めていろんな試みをしている。客集めは難しいところなのだろう。にしても、高いな。花道に近いところと遠いところで値段変わらないのか。
四月大歌舞伎こそ『天一坊』……観に来るのか??
演目を何も考えずに観たため、四月大歌舞伎第一部が『天一坊』と、歌舞伎座に来てチラシを見て初めて知る。げげ、コクーン歌舞伎『天日坊』と比較するならこっちではないか! あほや。今度は三階席で観に来るかも、また松竹に。
など、「永遠の歌舞伎初心者」の感想。不勉強、おゆるしを。