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マスカット

 遠方に住む母から荷物が届いた。お米やらお菓子やらたくさん入った段ボール2つ分。他に、タッパに入ったマスカット。娘が好きだというこのマスカットを一緒に入れて送ってくれた。

 ヒトがこの世から去った事で、この世の私の心が沈む。目の前にある、例えば子どもがやらかしたイタズラや自分の日常の不安が、とてもちっぽけだと感じる。そしてその感情さえも愛おしく、目の前で笑う子ども達は、ただそれだけでいいのだと、この一刻という時間を、私も一緒に笑って過ごしたいと、思っている。

 生と対極にあるずの死の世界が、近い所にあるような錯覚に陥る。ゲームの世界の様に、あまりに、この世であっさりと死が飛び込んでくると、信じられなくて、またそのヒトに会えるような、自分もつい、一緒について行っていいような、そんな気になってくる。炎天下で見つけた避暑地みたいに。都会の雑踏から別荘に移るみたいに。逃げこんだ先が極楽の場所であってくれますように、と願うが、はたして極楽浄土かどうかは、誰にも分からない。
 自分で自分を殺す予定で生まれてくるヒトなんて誰もいない。他人を憎んだり、羨んだり、悪いところばかり批判して過ごすのもヒトの人生だが、とことん意味のない事だと、私は感じた。自分が意思決定して生きるのだから、一人の人間として強く、他人からの何かにブレる必要は、全く、ない。

 今ある時間をどう生きるか。
 コンフィデンスマンJPを観ている。
 映画を楽しむ、嬉しい、楽しい、これが好き、これは苦手、ここに行きたい、あれが食べたい、、自分の感情と向き合う。お金がない、僅かだけど貯めよう、明日が憂鬱、明後日に笑おう。人生の中で、明日初めて気づく事があるかもしれない。
 生きる。生きている。
 これからのあらゆる感情を、敏感に、愛したい。

 
口にしているマスカットが、

今まで食べた中で一番、美味しい。

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