青天を衝け・感想
流行に遅れてNHKの大河ドラマ「青天を衝け」を一気に観た。
2021年2月〜12月まで放送されていたドラマで、放送終了後に周囲やインターネットで絶賛する人が多かったので、そんなに言うなら観てみるか、という感じで見始め、気づいたらどハマりしていた。
ドラマを見る前、「渋沢栄一」という人物について私が知っていることといえば、「日本経済の父と言われている人」「『論語と算盤』を書いた人(正確には書いたのは栄一ではなく彼の弟子たちだが)」という程度のものであった。
そんな私からすれば、渋沢栄一が思いっきり江戸末期の血生臭い時代を、腰に剣をたずさえ(農民あがりの)武士として生き抜いてきた人物ということは驚きだったし、農民階級出身の彼が一体どうやって成り上がるのか、興味が尽きず、物語にぐいぐい引き込まれた。彼が江戸末期に徳川慶喜に仕えた「幕臣」だということも初めて知った。
このドラマの面白さを挙げはじめればキリがないが、あえて言うなら
・脚本がうまい
・配役がうまい
の2つが大きかったように思う。
■脚本がうまい
脚本を手がけたのは大森 美香さん。
過去の作品に「カバチタレ!」や「ランチの女王」「ブザー・ビート」などがあり、これらの作品から推察するに、人間ドラマを描くのが大変に上手い人なのだと感じた。学生時代は演劇部だったようで、このバックグラウンドは、「青天を衝け」で重要な役割を担っていた徳川家康(北大路欣也)による狂言回しの演劇的な演出につながっているのかもしれない。
いろいろな評価があるようだが、私は徳川家康の「狂言回し」が、このドラマの引き締め役として非常にうまく機能していたと思っている。
「江戸幕府が倒れて新政府が樹立された」という表層的な歴史認識しか持っていなかった私のような視聴者にとって、狂言回し役の徳川家康が「明治時代をかたちづくった人物が、実は「幕臣」だったということをご存じだろうか?」と冒頭投げかけることによって、これから展開する物語への興味を掻き立てられる。
そして江戸幕府が倒れ、新政府が始動したあたりで、この狂言回しがより一層効いてくる。
幕末〜明治初期の混乱のなか、各地で戦争が勃発するようになり、町は荒れ、治安は悪化した。新政府ができてからも、官僚が武士に取って代わっただけで、人々の暮らしはなかなか良くならない。「これでは江戸時代の方がまだマシだったのではないか」「本当にこの道が正しかったのか」という葛藤は、明治の偉人たちの脳裏に何度も浮かんでは消えたに違いない。彼らの心に影のようにつきまとう「江戸時代」の威光。徳川家康が物語の冒頭に登場することで、観ている私たちも当時の明治時代の人々の苦悩の一端を共有しているような気分になる。
また、今回の脚本で特徴的だったのは、「主君」と「従者」の間に結ばれる”絆”に強くフォーカスしていた点だ。特に「徳川慶喜と平岡円四郎」「徳川慶喜と渋沢栄一」の絆は非常に印象的に描かれていた。平岡円四郎(堤真一)の描き方などは象徴的で、あえて「素」の部分を強調したり、うまく食事の支度ができない不器用な面をみせたりすることで、慶喜にとって円四郎が「気の置けない特別な存在」ということを印象付けることに成功していた。円四郎が暗殺された回では、全視聴者が「円四郎ロス」になったに違いない。このあたりの描き方は、かなり現代的というか、ドラマ的な演出が入っており、あくまでも史実をそのまま描くことを重視する大河ファンにとってどう映ったのかはわからないが、少なくとも私のようなミーハーな視聴者にとっては、涙なしでは観られないほど感情を大きく揺さぶる脚本になっていた。
■配役がうまい
「青天を衝け」は役者の配役が抜群で、ここまで「はまり役」ばかりのドラマも珍しいのではないかと思えるほどだった。
主人公の吉沢亮は、いうまでもなく美形なのだが、特に明治以降の清濁併せ吞む渋沢栄一の、時に熱く、時に冷徹な、その時々の感情を表現するときの「目線」の使い方がうまいと感じた。
今回とくに「はまり役」と感じたのは、草彅剛演じる「徳川慶喜」だ。どことなくつかみどころがないが、不思議なオーラがある、草彅剛の独特な存在感が、時代の潮の目で意図せず表舞台に担ぎ出されることとなった徳川慶喜の人物像にぴったりとはまっていた。
他にも、野々村利左衛門(三井財閥の大番頭)の抜け目なき商人の悲哀をコミカルな演技で表現したイッセー尾形や、大隈重信の「であーる」の口グセでお茶の間を和ませた大倉孝二など、一癖も二癖もある明治の偉人を多彩な役者陣が見事に演じていた。まるで役者同士競いあっているかのような名演技の連発で、見ていて本当に気持ちが良かった。
以上、私なりに「青天を衝け」を見た感想をまとめてみた。
あまりにもこのドラマにはまりすぎて、早速Amazonで「論語と算盤・現代語訳」をポチり、読み進めている。この本もまた非常に面白く、「大切なことは全部ここに書いてある」と言ってよいくらい、現代にも通じる物事の考え方が散りばめられている。この本の感想も別の機会にまとめたいと思う。
とにかく「青天を衝け」、おすすめです。