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架空配信の文字起こし

存在しない動画配信の文字起こし、です。

「今日も優しく、うそを語ろう」

ほとんど毎日、最低でも30分、近所を散歩している美少年VTUBERの「京モウソヲ潟郎」です。

若かった頃は、近所に住む年配の人たちが朝に夕に散歩しているのを見て、その気持ちが分からなかったんですよね。

歩くことそれ自体が目的だなんて、あり得ないよな……って。

若者にとって歩くというのは、手段ですよね。

映画を見たいとか、本を買いたいとか、服を買いたいとか、まずは、やりたい事があって、そのために映画館まで歩く、本屋まで、洋服屋まで歩く。
電車に乗るために駅まで歩く。
帰るときは、駅から家まで歩く。

まずは目的ありき、目的地ありき、で、その目的地へ行くために「しかたなく」歩く。
お金があればタクシーで映画館の前まで行けて楽なのに、なんて思いながらね。

そんな若かりし頃の僕からすると、お散歩が趣味の年配の方々って、理解できなかったんです。

お散歩って、つまりは、目的も目的地もなく、ただ「歩くために歩く」ことですよね。
それが、よく分からなかった。
歩くことそれ自体が趣味になるなんて、想像できなかった。

まだ、ジョギングなら理解できるんですよ。
ジョギングはスポーツであり、スポーツは趣味だから、それ自体が目的であっても、まあ、わかる。理解できる。
今にして思えば、ちょっとした偏見だったのかな。

それから僕も歳を重ねて、人生の折り返し地点を過ぎて何年か経ち、ふと気が付いたら……してたんですよ。
僕自身が、散歩を。

べつに行楽地でも景勝地でも何でもない、見慣れた近所の住宅地を、どこへ行くとも決めずに歩くことが多くなった。

これって、一体いったいどういう心境の変化なんでしょうね。
自分自身、よく分からない。

まあ、本当は僕、ピチピチの10代で美少年の高校生なんですけどね。
高校はバーチャル高校で、年齢もバーチャル年齢ですけど。

それは、さておき。

昨日のことです。
夕暮れどき、いつも通り、習慣になってる散歩へ出かけました。

目的地もルートも時間も決めずに、体力と気分にまかせて歩く。
体力と気分が少しでも「えて」きたら、そこが潮どき。
クルリと向きを変えて、こんどは家に向かって歩く。帰る。
自分の体力・気力と相談しながら、歩く。
無理は、しないよう心がけています。
ていうか、心がけているつもりでした。

ところが昨日は、どういう訳か歩きすぎちゃって、疲れちゃって、帰るのも面倒になっちゃったんですよね。
それで、どうしようかなぁ、って思って、ふと見ると100メートルくらい先に小っちゃな公園があるじゃないですか。
ベンチらしき物もある。
ドリンクの自動販売機も見える。

にも角にも、まずはあそこでひと休みするか、と思いました。
それで公園まで歩いて行って、自販機でペットボトルを買って、ベンチに座って、チビリ、チビリと飲みながら、ひと息つきました。

その時なんです……僕の目の前を、1匹の猫が横切ったのは。

結構なスピードで、ひゅーっ、と駆けて行った。

色は、茶とクリームの縞模様でした。
虎猫とらねこ、って言うのかな。
首輪は付けていなかったから、野良猫でしょう。

よく見ると、口に何かをくわえていました。
何か魚の干物のみたいです。
アジの開き? そんな感じに見えました。

ピンッ、と来ましたね。
アジの開きを咥えて、住宅街を全力で走る1匹の猫。
コイツめ、どこかから泥棒して来やがったな!
泥棒猫……いわゆる「ドラ猫」ってヤツか。

次の瞬間、あることに気づいて、また「アッ」って、なりました。

という事は、いま自分の目の前を走り過ぎたのは、「お魚をくわえたドラ猫」だぞ! って。

なんか、妙な予感があった。
ただ、何に対する予感なのかまでは自分自身にも分かりませんでした。

その時ですよ。

「まてーっ!」という女性の声が聞こえたのは。

反射的に「ハッ」と振り返りましたね。

閑静な住宅街を、一人の女性が走っていました。
エプロンに、スカート姿。
このあたりに住んでいらっしゃる若奥様でしょうか?

彼女の髪型が、なんとも特徴的でした。
頭頂部に3並びのカール。
両サイド、ちょうど耳の後ろあたりにも、それぞれ3並びのカール。

ふと、彼女の足元を見たんですよ。
いや、驚きましたね。
彼女、裸足はだしだったんです。

閑静な住宅街。

お魚くわえたドラ猫が、逃げていく。
そのドラ猫を追って裸足でけていく女性。

そして、あの特徴的な髪型。

ようやく、ピンッ、と、来ましたね。

ああ……あれが、かの有名な……

「シオフキ貝さん」……か。

#小話
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