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私が精神病棟にいた頃
私は動けなくなった。
新卒で入社したIT系の会社。
出来たばかりのベンチャー企業で、社員は片手で数える程度。
4月から在宅で働き始めて、仕事が始まったなぁと思いつつ、上司の指示に従って仕事をしていた。
そこで直属上司のような、副業でやっているという増田さん(仮名)がいた。
その上司と、まぁ合わない。
私は打たれ弱くてプレパラートのようなメンタルをしているのだが、増田さんはズカズカと指示を出し、その指示も杜撰なもので、連絡をしてもすぐに返事が来ない。
徐々に耐えられなくなってきた。
それにはすぐ社長が気づいた。
社長が増田さんと取り合ってお話したようだけど、それと同時に別のことも起きた。
そう、失恋である。
好きになった人に誑かされ、思わせぶりなことをされて失恋したのである。
私は大学2年生の頃から双極性障害の診断され、鬱になりやすい人間だった。
仕事でのストレスと失恋が重なってしまった。
そして私は、仕事中パソコンを前にボロボロ泣いてしまった。
仕事が全く手につかないどころか、過呼吸になるほど泣いた。
お昼ご飯の時間、自分の部屋(仕事部屋でもある)で泣いている私を見つけた母親は駆け寄ってきた。
「どうしたの? 何かあったの?」
その言葉を聞いて、更に過呼吸になった。
母親に「とりあえず休みなさい」と言われ、私は泣きながらもベッドへ移動した。
しばらくベッドの上にいた気がする。
そうしている内に私の体は動かなくなった。
実際には全く動かないわけではない。
肘から先は動く。スマホ依存症な私は、そんな状況でもスマホを手放さない。というより、スマホがないと社長へ連絡もできないし、母親へ「あれ買って欲しい」なども言えないわけだ。
動けないと同時に喋れなくなったので、iPhoneのメモ機能を使って母親と会話をした。
「とにかく水を飲みなさい」
そう言って母親はペットボトルの水を持ってきたのだけれども、私は起き上がることも出来ない。
そのため、ストローをさして横になりながら飲ませてもらったのである。
小さくこくこくと飲んだ、それが夜ご飯だった。
私は社長へ連絡した。
18時前に日報を送るのが義務だったので、日報代わりに「精神的にきてしまい、体が動かなくなった。喋ることもできず、横になって水を飲ませてもらっている」という内容の文章と共に、「仕事は○時からしていません」と報告した。
社長はとても優しい人で、「無理をしないで欲しい」ということと、「本当はできないけれど、特別に有給ということにする」としてくれた。
翌日に病院へ連絡して、主治医のいる曜日で1番早い日を予約した。
病院で全て先生に話した。
体が動かなくなったこと、水を飲むために起き上がることも出来なかったこと、声を出すことも出来なかったこと。
結論としては、入院することになった。
入院するといっても「○日から入院です」というわけではなく、「今から入院です」ということ。
それにも驚いたけれど、まぁそりゃそうだろうなとも思った。
精神病棟に入院するのは初めてである。
社長にな入院することを報告して、母親に必要なものを家から取ってきてもらうよう言ってから入院生活が始まった。
入院について色々説明をされた。色んな書類に名前を書いた気がする。
精神病棟という場所、ちょっぴり怖いイメージがあったけれどもう逃げられない。
きっと良くなるんだと思って足を踏み入れた。